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こっぴどい猫のtetsuのレビュー・感想・評価

こっぴどい猫(2012年製作の映画)
4.3
今泉力哉監督の最新作に合わせて、投稿。


[あらすじ]

妻に先立たれ、スランプに陥ってしまった小説家・高田。彼の前に現れる若い女性と、その周囲の人間模様が入り乱れる、今泉流"群像劇"初期の集大成。


[感想]

今泉監督が群像劇を手掛けることは多々あれど、"こじれる人間関係に冴えない主人公を投入した"時の、喜劇作家としての才能はピカイチだと思っている。

そういう意味では、現在公開中の『街の上で』にも通ずるものがあるが、本作も渾身の出来。

なんといっても、今泉さんの恋愛観にモト冬樹さんが介入してくる気持ちよさが格別。

生誕60周年記念作品という触れ込みも納得な唯一無二のモト冬樹さん映画で、哀愁漂う表情、その佇まい、劇中における存在そのものが最高過ぎた。


[今泉監督あるある]

娘、娘の婚約者、その不倫相手という設定からして、こじれている人間関係に、固定カメラ、見慣れた部屋、赤のタペストリーといった監督の初期作に共通する要素。

さらには、動物園に行く男女の描写は『愛がなんだ』に繋がっていくし、突如として浮かび上がる「死」という題材は、『終わってる』や『退屈な日々にさようならを』にも共通しているなぁと思った。

また、初期作から、過去の実体験や恋愛経験を脚本に反映してきた今泉監督だからこそ語ることの出来る、「創作」についての物語は興味深く、小説家である主人公だけでなく、ヒロインも、音楽を演奏するという意味で、ある種、作り手側であるという設定は面白かった。


[終わりに]

好意を表現する視線の表現などにも、恋愛映画の名手・今泉監督のセンスが光っている本作。

タイトルがじわじわと腑に落ちるエンディングに、余韻が残る作品で、『街の上で』にハマった人には、ぜひ、見てほしいコメディ群像劇の傑作でした。
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