かや

ぐるりのこと。のかやのレビュー・感想・評価

ぐるりのこと。(2008年製作の映画)
4.2
面倒な世界もぐるりと見回せば、見えてくるものがたくさんある。

同じく橋口監督作「恋人たち」が素晴らしい作品で、本当は先に本作を観てからにしたかったんだが、全部レンタル中だったので鑑賞後になりました。

至って普通の平凡な夫婦の物語。
本作も重さの中に温かさを生む、ふとした一言が心に沁みる素晴らしい作品。

夫婦の性格の対比がしっかりしている。
木村多江演じる妻役の翔子。
生真面目で厳格、ルールを決め、それを守ることで夫婦生活を円満にしたいというタイプ。
感じたことや思ったことは口に出してほしいと思っている。

リリーフランキー演じる夫役のカナオ。
翔子とは真逆で、感情を顔や口に出さず、ルールのように目に見えるものよりは、思いやりなど目に見えない心の通じあいを重視するタイプ。
感情表現は相手のためではなく、自分を納得させようとしてるだけなこともあると考えている。

2人とも父親がいなくなったという共通した過去があるが、それがかえってこの性格の相違に表れている描かれ方。
そして翔子に限界がきて爆発した、この2人が作品内で初めてぶつかる瞬間を境目にして、前後半で全く印象が違うのが面白い。


それに加えて実際にあったニュースや事件を交えていて、これらがキャラクターの感情ともリンクしている。
悲しいときは嬉しいニュースは耳に入ってこないし、自分ではなく世の中が悪いように思えるときだってある。
この使い方は非常に上手い。


絵を描くということも2人の心情を表す道具として用いられている。
カナオが描く法廷画も、翔子が描く天井画も、カナオが描いたある似顔絵も見事にコミュニケーションの一部として成立させている凄さ。
ここも注目するべきポイント。

「カッコ悪くたっていいんじゃないんですか、生きているだけで大したもんですよ。」
カナオの父は自殺しているからこそ言える台詞だ。
死という逃げ道を人は選ぶことができるけど、人はいつだって不条理にまみれた日常を生き抜く人生を送っている。

それでもそんな人生を生きていくのは他者とのつながり、世界とのつながりがあるからであり、その素晴らしさこそが本作の伝えたいことのひとつだと思う。
自分の意思や感情を伝えられるというのは、普通にできている気がして実際は難しい。
言葉に出して伝えることは重要だが、言葉にするだけでは意味はない。
コミュニケーションの本質を捉えている。
上辺な会話は相手に見透かされ、自分に返ってくる。

橋口監督は、「言葉」「コミュニケーション」のそのものを一組の夫婦を通じて、伝えたかったんだと思う。

自分の世界をぐるりと見回し、相手のことを考え、相手の世界をぐるりと見回す。
世界を広げることが、日々を過ごしていくためには必要なのだと気づかされる、大変素晴らしい優れた映画でした!
橋口監督好きだわ。