アランスミシー

こねこのアランスミシーのレビュー・感想・評価

こねこ(1996年製作の映画)
5.0
ネコ映画の決定版
ネコ版トリュフォーの思春期
『マイライフアズアドッグ』からの影響
『熱帯魚』への影響

これ以上のネコ映画はもう一生作られないかもしれない

舞台はソ連崩壊後1996年、ゴルバチョフによる政策の変革により、共産主義下で育った親世代と新しく生まれて来た資本主義(大量消費社会)で育った世代で世代間格差が生まれる。
保守的すぎる親世代と自由的すぎる子供世代、それを見守るのは自由&保守両者のバランスの大切さを心得る老年世代代表の祖母。

《祖母》=賢者
戦前に育ち、市民レベルの声が社会をより良い方向に変えた共産主義国における正義の時期(レーニン世代)を幼少に過ごし、その後独裁者の到来、そしてソ連崩壊後の資本主義到来によって如何にそのリベラルと保守のバランスがぐちゃぐちゃに崩されたかを知る賢者の世代。
猫が食器を修復不可能なレベルで壊すという事件があっても、大丈夫よ、と冷静さを保ってその修復を淡々とこなす。次世代が齎す政治的変革にも寛容でありつつ、猫も食事も(必要不可欠なモノを)忘れてゲームに没頭する子供たちをちゃんと叱れる祖母はまさに人生の賢者。

《親世代》戦後冷戦下で育ち独裁者スターリンにより保守思想を植え付けられている。
彼らは如何に欧米の流動的な変化を受け入れないか教育され、キリスト教で言うカトリックのように、それを受け入れて仕舞えば訪れる地獄という恐怖心を煽る文句によって支配され、変化を嫌う保守思想に陥ってしまった。

《子供たち》
ソ連崩壊後、欧米からの波に呑まれ大量消費社会の中育った子供世代。
彼らはエゴのママにモノを買っては捨てる事に慣れてしまい、その対象が生き物(ペット)になった時に悲劇が起こる。
果たして少年少女らは、かつてぬいぐるみに抱いていたような保守思想を再び取り戻す事ができるのか?

ソ連や中国の監督だけでなく、アキカウリスマキらを筆頭にフィンランドの監督らも含めて世代間に生じた保守リベラルの格差を描いた作品が多いのは同じ歴史に影響されたが故なんだなぁ。
それとは違ってアメリカやフランスでは同世代間での対立が常に描かれるのを見ると国の歴史が違うだけでこんなにも分かれるんだなぁと関心させられた。

【作品例】
《中国》覇王別姫
《ロシア》メッセンジャーボーイ、私はモスクワを歩く、こねこ
《フィンランド》マッチ工場の少女、コンパートメントNo.6
《アメリカ》アメリカンビューティー、オールドジョイ、アベンジャーズ
《フランス》ママと娼婦、ドリーマーズ