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怒りのキューバのryosukeのレビュー・感想・評価

怒りのキューバ(1964年製作の映画)
4.7
108分短縮版 35mm
縦横無尽に動き回り、時に人物のすぐ側まで寄って彼らの熱量を伝えてくれるカメラワークのエネルギーが凄まじい。何よりも意思を持った肉体的なカメラが本作の主役だろう。そのエネルギーは革命前夜の民衆の怒りに他ならない。カメラのダイナミックな躍動で魅せてくれたと思えば、固定ショットの構図もバチバチに決まっている。フルバージョンもいつか絶対見たいな。
アレクセイ・ゲルマンのやり口ってこの辺りが元ネタなのか?
本作のカメラには人格が与えられ、民衆に寄り添うことになる。ダンスシーンでは人々と共に踊るように動き回り(女性にぐっと寄る瞬間などハッとする)、怒りに任せサトウキビを伐採する男を見ればカメラも我を失う。同志が落下すれば一緒に落ちていき、撃たれればカメラもたじろぐ。
地上からビルの上階までカメラが上がっていき、そこからノーカットで路地の上の空中をカメラが滑っていくショットなんてどうやって撮ったんだろうか。
怒り狂った男がサトウキビ畑と家に放火していくシーンの熱量が凄まじい。安全管理とか大丈夫なのかな。燃える家とその前に横たわる人のショットなど息を呑まされ、タルコフスキー「サクリファイス」のクライマックスを想起した。
当時のドライブインシアターの光景が見られるのも嬉しい。
男の死体の上をビラが舞い散るシーンの、鮮烈な編集によって繰り出されるスローモーションも素晴らしい。自分の中で「新学期 操行ゼロ」に次ぐベストスローモーションの一つになった。やっぱりスローはこれぐらい効果的に使って欲しいよな。
平和の象徴たる白いハトの死骸を掲げて行進する描写が、同志が殺されてもまた立ち上がればよいというメッセージを発する。無残に崩壊した我が家の跡地で妻のつく杵の音が聞こえてくる瞬間に男は「平和に暮らしたいだけ」なら戦うしかないことを悟る。このあたりのシーンは強烈なプロパガンダっぷり。ただこのプロパガンダ的なメッセージ性を入れるために後半若干失速した気もするのが唯一残念っちゃ残念かな。あとセリフにロシア語が被さるのはロシア人以外にとってはちょっと邪魔ではあるな。
逆に言うと不満点はそれぐらいしかなく、終始超絶技巧の撮影で圧倒し続けてくれる。「暗殺のオペラ」と並んで(ベクトルは違うけど)撮影の魅力によりオールタイムベスト級に感じられる傑作だった。
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