Jeffrey

ファニーゲームのJeffreyのレビュー・感想・評価

ファニーゲーム(1997年製作の映画)
3.5
「ファニーゲーム」

〜最初に一言、恐怖映画の定石を無視したスタイルはまさに現代のコンセプチュアルアートと呼ぶべきセンセーショナルな作風で、ヨットに「Z」の文字が映し出された悪のビクトリーを捉えた悪夢作。ハネケの傑作「ベニーズ・ビデオ」に次ぐ不条理で理不尽な世界を描いた胸くそ悪い作品の見本的映画で、後の「スペイン一家監禁事件」などに影響与えた怪作である〜

本作は1997年にオーストリアで監督したミヒャエル・ハネケの不条理映画の金字塔として名高い作品で、日本では5年後の2001年にシネカノンで上映された作品が、この度BD初国内で発売されたのを購入して何十年ぶりに再鑑賞したが、理不尽極まる内容だ。しかし、クライテリオンの濃厚な特典の濃さとは打って変わってキングレコードの内容はあまりにも薄い。2008年にはミヒャエル・ハネケ自身がハリウッドリメイクした「ファニーゲーム U.S.A.」と言うナオミ・ワッツがハネケの作品に挑戦したいと言う形でプロデューサーを名乗った作品もあった。この作品確か当時のカンヌ国際映画祭に出品されたときにあまりの不条理さと痛々しさから審査員などを勤めていたいたヴィム・ヴェンダース監督らが席から退場したと言う話は有名だろう。

そして霧の都ロンドンではビデオ発売の反対を運動として起こされていた。そういえばハネケの国内のBD化作品はこれで4作目かな?どんどん発売してほしい。今のところ「白いリボン」「ピアニスト」「ハッピーエンド」「ファニーゲーム」だ。初期作品だとこの作品を超える不条理の世界観を描いた「ベニーズ・ビデオ」が1番好きなので一刻も早く国内でBD発売してほしい。あまりに挑発的で暴力的な内容に世界各地で物議をかもしだし衝撃の超問題作として位置づけられた世界で最も不快な映画として君臨するこの作品は、彼の作品の中でもわりかし上位に来るほど好きだ。ジョン・ゾーンの音楽がたったの2曲しかないにもかかわらず、すごく印象を残すシーンが作り出されている。しかも自己言及的な要素も含めており、メタフィクションの世界観も多少なりとも映し出されている。

さて、物語は穏やかな夏の午後、バカンスのため別荘へやってきたショーバー一家。そこにペーターと名乗る見知らぬ若者がやってくる。はじめは礼儀正しいペーターだったが、仲間のパウルが現れる頃には態度が豹変。やがて2人は皆殺しを宣告し、一家は彼らに「ファニーゲーム」の参加者にされてしまう…と簡単に説明するとこんな感じで、すでにパルムドールを2度受賞しているハネケの人気作である。いつ見てもオープニングのクラシックをぶち壊すヘビメタが流れる車内の正面映像と上空撮影で車とハイウェイをとらえるファースト・シーンは最高。それに続いて卵のシーンは文句のつけどころがないほどの緊張感を捉えている。こんなやりとり普通にありえない。図々しいにもほどがある。映画が始まって10分そこらでもはや胸くそ悪い場面に出くわす。

あの反復の演出はやっぱり凄いよなぁ、なんてことない場面なのにすごく魅力を感じる。最初に卵をもらいに来た青年が、卵を玄関先に落として、再度卵をもらうが、その間に携帯をシンクに落として水浸しにして使えないようにさせて、その後に再度卵をもらってもいいですかと、今度はそのまま渡そうとしたら包んでくださいとぬけぬけと言って…。そんでふたりめの青年がやってきて、ゴルフバックを見つけて芝生から湖の方へ試し打ちしてもいいかと言って奥さんを困らせるが、こんなのマジで実際に起きたらリアルな恐怖だよな…。自分も茨城の太陽村(今は合併して違う村になっているが)に別荘を持っていて、子供の頃その別荘に設備されている25メートルのプールでよく泳いでたんだが、地元の子供たちがそのプールで泳ぎたいと言って毎日(夏休みの時)勝手に庭を抜けてプールで泳いでいたのを両親が困惑するように会話していたのを子供の頃ながらに記憶している。

合併と同時にその別荘は売り払ったんだけど、今思えばそのプールで親なしで、子供たちが泳いで溺れてもしたら大変な問題になっただろうなと感じてしまう。少し脱線したが、ゴルフの試し打ちをした2人が、今度は奥さんがご立腹しているのに対して弄ぶかのように、また卵をもらうまでここにいると言ってキレさせる場面も理不尽すぎる。そこに父親と息子が帰ってくるんだが、結局卵を渡すように言われ、しぶしぶ彼女は夫に手渡し、これをあなたが私なさいと言う場面なのだが、結局妻がその場から行ってしまったのを危惧した彼は、卵を渡すのをやめたのだが、そこに2人が夫に近寄り、下品のことを言って旦那が青年の1人の頬を平手打ちすると、もう1人の青年がゴルフパットで夫の向こう脛を殴る場面から一気に胸くそ悪い時間が始まる…それは上映が始まってから25分のことである。

そんで夫婦が飼っていた犬がいなくなったと言う、その犬を探す青年2人による胸くそ悪いゲームが始まっていく。その時に青年の1人がカメラ目線になってウィンクをするのだが、当時この作品のこのシーンを見たときにかなり衝撃を受けた。観客を巻き込む形式の作品は今となってはあるが、当時はなかなかなかったので驚かされた。その胸くそ悪い演出を2画面同時進行にさせたのが2010年に制作されたミゲル・アンヘル・ビバス監督による「スペイン一家監禁殺人事件」だろう。この作品も好きだからBD発売してほしいけど、権利を持っているのがキングレコードだから一切の特典も入らず最悪な仕様になってしまいそうだけど。

そんでヨットでやってきたその付近に住んでいる家族たちと会話するのだが、その時にロングショットで映し出された街の風景があまりにも美しくて、この美しい中にこのような理不尽なグロテスクなことが行われていると言う対比もなかなかだった。そんで暗闇の室内で3人が暴力を振られていく。ついには息子にまで手を伸ばす青年たち、1人は汗かきでひたすらハンカチで汗を脱ぎとるのが印象的で、もう1人の青年はスレンダーな体型に細めの生足が印象的だった。リメイク版だとマイケル・ピットがスレンダーな青年を演じていた。そんで多くのパッケージになっている子供がクッションのカバーを頭にかぶせせられるファミリーゲームが開始される場面は惨たらしい。とゆうか屈辱的。

そんで子供だけが外へ逃げて、隣人の家に入り込んでトイレを覗くと子供の死体が下半身だけ写し出されて、それを見てかなり恐怖に怯える少年が1人の青年と鬼ごっこのように追いかけっこをする場面も印象的だが、少年が猟銃を手に持った時は何かしらのリベンジアクションが行われるのかなぁと思ったが…そこはハネケ。悪に加担する方式で貫く…。そんでオープニングで流れたヘビメタがかかって、少年と青年の対面が果たされるのだが、青年の余裕振った表情がまた憎たらしい。そんで固定ショットで映される〇〇が起きた後の奥さんの固まった表情がなんともいえない余韻を残す(カーレースのテレビの音とともに)。そんでこの映画の画期的なところは、事件が終わった後に夫婦のその後が描かれ、結末を迎えると言う点だ。

そんでその後に巻き戻しされると言う演出がなされるのだが、まさにタイトル通り「ファニーゲーム」の瞬間であった。そしてセイリング、最後にもう一つの家へ、ファニーゲームと言う真っ赤に彩られたタイトル、青年のクローズアップの眼差し、ヴィメタル…と穏やかな混沌が新たな幕を開ける帰結をする。確かカンヌ映画祭ではショッキングな場面がありと言う警告付でコンペ上映されており、それまで一貫して暴力とメディアを描いてきたハネケ監督は「なぜ人々がこの映画に憤慨するのかははっきりしています。憤慨させるために作ったのですから。暴力は撲滅できないものであり、痛みと他人への冒涜であることを伝えたい。だから、暴力を単なる見世物ではなく、終わった後に暴力の意味を再認識するものとして描かなければならない。また、今やハリウッドでは暴力が快楽を求める手っ取り早い方法となりつつあり、ユーモアとして処理されている」と真っ向からアンチテーゼを掲げていたことを思い出す。

当時、受賞はならなかったものの、スクリーンの中の暴力と観客を結びつけようとするハネケの挑戦は大きな話題となり一躍世界にその名をとどろかせる契機となった。そして、カンヌ国際映画祭でハネケ監督は2001年に「ピアニスト」で審査員特別賞、主演女優賞、主演男優賞の3冠を、0 4年には「隠された記憶」で監督賞を手にし、ようやく時代がハネケに追いついたと言う感じである。そしてその後にカンヌ国際映画祭最高賞のパルムドール賞を「白いリボン」と「愛、アムール」の2作品で2度受賞している数少ない映画作家と上り詰めた。この作品はお勧めできるような内容ではないため、気になった方は自己責任にて。この知的で厳格性とブレヒト的ドラマ性があるこの作品は確実に混乱し、触発させるため、人によっては心理的なダメージが大きい。観客の感情を操作してしまうような内容で、勇気ある人が最後まで見るべきだと言う感じの、傍観者ではなく、参加者として体験してしまう。何も見せない暴力は、生々しく見せるよりもさらなる衝撃を与えるとサイトアンドサウンドが掲げたようにかなりの衝撃的作である。
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