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網走番外地のmitakosamaのレビュー・感想・評価

網走番外地(1965年製作の映画)
4.0
東映ヤクザ映画なんて、殆どみんな一緒だろ。というツッコミはまぁ間違ってはいない(笑)
だが今作は違う。従来のヤクザ映画・任侠映画のフォーマットでの作品じゃないからね。
そして単純に面白い!物語はシンプルなのに、各キャラクターの設定が活きていて話に深みがある。

網走刑務所に受刑者が護送される所から始まる。雪荒ぶ中で縄で繋がれ、汽車で就きトラックで移送される。昔はこうだったのねぇと感心するわ。
その中に高倉健演じる橘。ヤクザだが他の者より腹が据わっている感じ。

ただ、主役補正がかかっているのは間違いないが、他の健さん演じるような何十人も叩っ斬って人一倍仁義にも厚いスーパー極道じゃない。
強いヤクザだが人間的な弱さをちゃんと持ち合わせている。

ハッキリ言ってどの映画の健さんよりも、今作の橘は個人的に魅力を感じる。他の受刑者の様に要らぬトラブルを起こす気はないが、例のカンカン踊りなんかもノリと勢いでやっちゃう。
あのカンカン踊りのシーンが傑作なのは、見た目の面白さだけじゃないよ。地道に耐えていれば刑期が早まったであろう状況で、自制心が取れなかった橘に人間的な魅力が感じられるからだ。

またアラカン演じる“八人殺しの鬼寅”がサブキャラながら強力な個性を発揮したのも素晴らしい。本当に強いやつこそ偉ぶらない、他の受刑者が喚き散らすのが弱い犬だからだというのが判る。
そして橘は、丁度強さの中間に位置するキャラなんだよね。

劇中最強キャラでない橘なので、脱獄の誘いにも気持ちが揺らぐ。
手錠に繋がれ脱獄に巻き込まれる橘だが、ここでも実はハッキリしない。戻りたい気持ちと逃げ切れるかもという誘惑に揺れる。相手のペースに巻き込まれ苛立つが、結局は脱獄に協力せざるを得ない。

さらに弁護人である妻木( 丹波哲郎 )が追う。ここでの雪上トロッコのシーンのスピード感よ。そして後戻りが出来なくなる橘の焦りも上手く表現されている。

予想外な清涼感溢れる終わり方も良い。
おそらく制作側の意図を超えた効果があったのだとは思う。だが結果的にあらゆる要素が補完し合い、完璧な映画になったのだと思う。
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