もっちゃん

機動警察パトレイバー THE MOVIEのもっちゃんのレビュー・感想・評価

3.8
科学、経済の発展によって生じる欺瞞、ひずみに対して警鐘を鳴らした一作。

”Labor レイバー”とは人間社会の発展のために「労働力」として導入された労働ロボットのことである。そして、人間の役に立つために作られたレイバーを悪用する人間が出てくるのも長らくロボットアニメ・マンガが描いてきた一大テーマである。

この作品の新しさはそれをOSという公開当時には専門的な知識であったコンピュータシステムの利便性を逆手にとってまんまと犯罪の道具にしてしまったこと。ここに押井監督の凄みを感じるわけだ。

さらにバブル終盤期にあったとはいえ、経済発展の恩恵を被って浮かれていた日本社会に対してここまで鋭く警鐘を鳴らした作品はアニメ以外のメディアを入れても稀有であるだろう。芸術作品とは得てして現実の先取りをしてしまうものだが。

エホバ(ヤハウェ)、方舟、バベルといった聖書から抜粋した隠喩は押井監督が好んで用いるものであるが、バブル崩壊の際にどれだけの人間が「方舟」によって救出されただろうか。
開発につぐ開発によって都市化が進む一方、その舞台裏では開発に取り残された廃墟が散らばる。松井刑事が捜査するそれらのスラムにも似た地域はいかにもリアルで押井監督の批評性が発揮されている(これらのシーンの廃墟は押井監督が良くモチーフにする香港「九龍城」をもとにしているのか。また、こういった「開発の裏の貧困」といったテーマにスポットを当てた作品としては黒澤明の「天国と地獄」が想起される。これは高度成長期の批評であった。押井監督が参考にしたかは定かではない)。