鋼鉄隊長

機動警察パトレイバー THE MOVIEの鋼鉄隊長のレビュー・感想・評価

4.0
TSUTAYAで借りたDVDで鑑賞。

【あらすじ】
作業用ロボット「レイバー」の暴走事故が多発。遂には自衛隊の無人レイバーまでが自己を起こしてしまう。特車二課はOSの不具合に理由があると考え、プログラマー帆場暎一を捜査する…。

 世の中には「早すぎた名作」と呼ばれる作品がある。時代を先取りしすぎた為に観客の理解が追い付かなかった作品のことだ。『電光超人グリッドマン』(1993)などがよく言われているが、この映画も同様に含まれるだろう。まだパソコンが現在のように普及していない時代に、コンピューターウイルスがテーマとなっているのだから、その先見の明には驚かされる。しかし早すぎた名作は、時代が追い付けば必ず傑作になると言うわけでは無い。どこかに古臭さが残っており、結局時代に合わないからだ。そんな中でも『パトレイバー』は、この中途半端さを上手く昇華している。スペキュレイティブ・フィクションを昭和の中に確立しているのだ。
 スペキュレイティブ・フィクション(以下S-F)とは、現実とは異なる世界を推測して創造された作品のことで、「並行世界の物語」と解釈することも出来る。この映画ではロボットが普及したS-Fが描かれており、昭和の風景の中で当然のように「作業用ロボット(レイバー)」が存在している。レイバーにはSF(サイエンス・フィクション)に見られる未来感はさっぱり無く、タンクトップ姿の作業員が操縦する重機のような泥臭さがある。この異質さが大変魅力的だ。木造平屋の一戸建てが立ち並ぶ下町を舞台に、4~5mほどのレイバーが取っ組み合いをして戦う姿は特に素晴らしい。瓦や物干し竿が飛び散る中を逃げ惑う群衆は、古き良きパニック映画を観ているようである。『パトレイバー』には未来では無く、いつまでも終わらずに続く昭和が生きている。だからこそ物語は、事件解決の為にバビロン・プロジェクト(東京都内の大規模都市開発計画)の要である施設を破壊する展開となる。これは都市開発を失敗させることで、物語の時の流れを断ち切り、物語世界を昭和に釘付けにしようとしているように思える。
 『パトレイバー』は永久に続く昭和の中で「早すぎた名作」としてこれからも君臨し続けるのだろう。
鋼鉄隊長

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