サマセット7

魔界転生のサマセット7のレビュー・感想・評価

魔界転生(1981年製作の映画)
4.0
原作は山田風太郎の同名小説(発表時のタイトルは「おぼろ忍法帖」、映画公開時に改題)
監督は「仁義なき戦い」シリーズ、「柳生一族の陰謀」「バトルロワイヤル」の深作欣二。
主演は「仁義なき戦い広島死闘編」「柳生一族の陰謀」「戦国自衛隊」の千葉真一と「太陽を盗んだ男」「ときめきに死す」の沢田研二。

寛永15年。島原の乱と呼ばれる内戦が終結。蜂起した3万7千余のキリシタン軍は首魁の天草四郎時貞(沢田研二)をはじめ尽く殲滅され、戦場は屍で埋まった。
しかし戦勝を祝う幕府軍の面前にて、妖気と共に嵐が巻き起こり天草四郎が復活する。
天草四郎は、魔界転生なる妖術を駆使して、死した英傑たちを転生させ魔界衆として配下とし、徳川幕府転覆を企てる。
妖女細川ガラシャ、剣豪宮本武蔵、槍の達人宝蔵院胤舜、伊賀の忍者霧丸ら恐るべき達人たちが次々と魔界衆に加わっていく。
徳川家剣術指南役柳生一門の長男、柳生十兵衛は諸国を放浪する中、魔界衆と遭遇。江戸の父柳生但馬守宗矩に報告するが、将軍家綱や宗矩の下にも魔界衆の魔の手は迫っていた…。

1981年に10億円のヒットとなった、角川映画起死回生の一作。
深作欣二監督、主演千葉真一、沢田研二の代表作の一つ。
ジャンル的には、いわゆる時代劇だが、ファンタジー的要素が強く、本質は異能バトルものと言えようか。

原作は忍法帖シリーズで忍者伝奇小説を確立した山田風太郎の代表作にして伝説的な傑作小説。
サムライスピリッツやFATEシリーズなどの後のサブカルチャーへの影響でも知られる。
原作と今作は、魔界転生で蘇った宮本武蔵、天草四郎、柳生宗矩らと柳生十兵衛が剣術勝負を繰り広げるという筋は同じだが、原作は山田風太郎らしいエロスやバイオレンスが横溢した長大なものであり、魔界衆のメンバーや魔界転生の条件をはじめとして、今作とは大きく異なる。
小説も名作だが、せがわまさきによるコミック版も原作に忠実で大変面白い。
今作では多数の登場人物やエピソードを整理して2時間の尺に収めつつ、映画オリジナルのキャラクターやエピソードを加えて新たな味を加えている。
特に天草四郎をはじめとするビジュアル的なイメージは、映画版である今作で確立されたと言われる。

今作の見どころは、魔界転生により蘇った剣豪たちと、千葉真一演じる柳生十兵衛の対決に尽きる。
原作では七人の魔界衆との7番勝負だが、今作では宮本武蔵、柳生宗矩、天草四郎の3人に集約。
それぞれ緒方拳、若山富三郎、沢田研二といういずれも劣らぬ名優が演じて、凄まじい殺陣を魅せてくれる。
宮本武蔵との海辺の対決!
柳生宗矩と柳生十兵衛の炎の中の親子対決!
同じく炎の中の天草四郎との最後の決戦!

特に子連れ狼シリーズで高名な殺陣の達人若山富三郎と、若山から殺陣を学んだリアルの弟子である千葉真一の戦いは、時代劇の歴史に残る決闘と言われる。2人が同流派の同じ構えから始める戦いは、なるほど凄まじい迫力。
深作欣二監督はセットに実際に火をつけるという荒業で、あり得ない迫力のシーンを現出させている。
役者は水をかぶって演技をしたという。

決闘以外にも、若き真田広之演じる忍者霧丸の葛藤、将軍を惑わし百姓の反乱を促して、今作のエロスを一人で担っている佳那晃子演じる魔性の女細川ガラシャ、魔人たちを倒すための妖刀を鬼気迫る様子で打つ丹波哲郎演じる刀鍛冶村正らも忘れ難い。

忘れ難いと言えば、現場で決まったという天草四郎と霧丸のキスシーンや、村正の家を訪れた際の隙間から見える宮本武蔵の眼光の迫力など、印象的なシーンは数多い。
特に沢田研二演じる天草四郎は印象的なビジュアルもあり、絶大なインパクトを残す。ラストシーンは必見である。

今作のテーマは、人間の業の深さと、業を抱えつつ生きることの悲哀、カッコ良さにあろうか。
魔人となったことに葛藤する霧丸に対して十兵衛がかける言葉や、決戦に向かう十兵衛が引き止める村正の養女お通に返す言葉は印象的な映画オリジナルの名セリフであり、今作のテーマを端的に表現している。
思えば、魔人衆はいずれも自らの業への尽きぬ妄執に囚われて死より蘇るのである。
人はいずれも自らの業を抱えて、それでも自分で決めた道を生きていくしかないのだ。

日本映画を代表する決闘を楽しめる娯楽大作。
ここを入り口に、子連れ狼シリーズや宮本武蔵関連作に入っていくのも一興であろう。