アー君

十二人の怒れる男のアー君のレビュー・感想・評価

十二人の怒れる男(1957年製作の映画)
3.3
今回は800回記念という事で世界的に評価の高い名画を鑑賞させて頂きました。

感想として昔から米国は司法ドラマが好きなんだなという印象。11:1で有罪になる予定ではあったが、長いものには決して巻かれない1人の陪審員だけが無罪を主張して最後はすべての陪審員が無罪判決へ導かれた映画である。

構成として最初の裁判のシーンは必要ではなかった。陪審員たちが議論をするだけでストーリーを展開した方が観客に想像力を掻き立てるので、少年や裁判官もドラマとして出演は不要だと思う。
それに矛盾する批評になってしまうが、状況証拠や証言だけで話が進むためイマイチ説得力が弱かった。これをもう少しリアリティのある証言があれば作品としての評価は高くなったので残念なところである。

技術面では撮影を担当したカメラマンのボリス・カウフマンが素晴らしい映像を表現していた。最近の映画も意図的にモノクロ映画にしているのが流行しているようだが、これはボタン1つの変換である事が分かるくらい味気ないモノである。しかしこの映画は50年代でモノクロしか撮ることができない。それをどのように自然色に近い見せ方で撮るかを心がけているのが理解できた。陰影のトーンがとても素晴らしくそれだけでも視聴する価値はあるのではないだろうか。

また日本では10年前くらい前に裁判員制度が導入されたが、陪審員制度と裁判員制度にはやや違いがあるが、前者は有罪か無罪なのかは陪審員のみで討論をして決めて刑の裁量は裁判官に委ねるが、後者は裁判員と裁判官が一緒に審議を進める制度である。

しかしこの2つの制度に対して問題があるのは本来民意を問う事件は大方皆無であり、殺人などの刑事事件が多いのではないかという問題点はあるとは思う。そしてこの映画がフィクションでありながら暗に証明をしてしまった事に失笑を禁じ得なかった。

ラストは議論で冤罪を立証してハッピーエンドだったかもしれない。しかし無作為に選ばれた国民が数日の議論で他人の生死を判断するのは心理的葛藤もある筈である。作者はこの制度の良いところしか描いておらず、体制側の宣伝映画をしている感じがしてしまい疑問が残る映画であった。

[ブルーレイによる購入・視聴]
アー君

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