あまのかぐや

十二人の怒れる男のあまのかぐやのネタバレレビュー・内容・結末

十二人の怒れる男(1957年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

深夜のCSで吹替版が流れていて、引き込まれるように最後まで観てしまいました。いやすごいな、これ。

父殺しの容疑で起訴された有色人種の少年の事件を裁く12人の陪審員。有罪ならば極刑は免れない。全員一致が原則の陪審員制度のなか、「疑わしきは罰せず」と一人無罪を主張する陪審員8号(ヘンリー・フォンダ)。話し合いを面倒くさがる人、人種差別的発言をする人、息子に見捨てられた男、老人や、スラム育ちの男などなど…事件の真相とともに、偶然が導きそこに居合わせた陪審員12人の人間性があらわになっていくスリリングな展開にどんどん引き込まれていきます。

大作「オリエント急行殺人事件」のシドニー・ルメット監督の処女作とのこと1957年の映画です。なるほど、列車に乗り合わせた乗客が下車するまでの限られた空間、時間、登場人物で構成される物語どいう意味で、ちょっと同じような雰囲気を感じます。

モノクロで、舞台も冒頭に少しだけ裁判所のシーンがありますが、ほぼ全編、陪審員室の空間のみ。(トイレ休憩あり)音楽も最小限に抑えられていますが、とにかく引き込まれる。密室の中のひといきれ、蒸し暑さもなまなましく感じられた。

吹替でみたのもよかったのかもしれない。夜中のモノクロ映画で字幕を追う煩わしさもなく、そしてほとんどが男たちの重なりあう言い合い、言い争いのシーンなので、これ字幕だったらなかなかおさめるのが難しいんじゃないかな?と思う。三谷版の梶原善さんのごとく「べらんめぇ調」でだらだらしゃべる男、思いっきりレイシスト全開でまくしたてる高圧的な男。気弱で付和雷同しがちな男、調子よいばかり話をまぜっかえすばかりで実は裁判の内容に触れていない男などなど、プロの声優さんたちの声の演技力でキャラクターの濃さが際立ちます。緊迫感を損なうどころか、かえって盛り上げる素晴らしい吹替でした。テレビ朝日版とのことですが、いまはなき「日曜洋画劇場」かな。昔はこんなの地上波で 流したのね。贅沢だ。

わたしは三谷監督の映画デビュー作「12人の優しい日本人を」を先に観ていて、これが大好きで「じゃあオリジナルも観てみて」とすすめられた、と、こういう順番でみたので、あ、これは相島一之さんかな、この役は梶原善かな?などと考えながらみていました。

コメディ要素が強いけど、収束に向けての推理だけでなく、実は、通り一遍ですまされないキャラクターの描き方がオリジナル以上に三谷版のほうが濃いかも。孤立しながらも自分の主張を訴え続ける陪審員がヘンリーフォンダ演じるところの「正義の人」ではなくて、実は清濁あわせ持つキャラの深みや、どんでん返し的な変身の面白さなど、「翻案」としてよくできているなぁと再認識されました。三谷さんは「オリエント急行」のリメイクも面白かった。
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