垂直落下式サミング

ONE PIECE FILM STRONG WORLD/ワンピース フィルム ストロングワールドの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.5
旅を続けるルフィたちのもとに、故郷「東の海」に突如として巨大生物が現れて、いくつもの島が襲われているという衝撃的なニュースが飛び込んでくる。その事件の首謀者である金獅子のシキの陰謀を阻止するため、お馴染み麦わらの一味が戦いに身を投じてゆく劇場版。
アニメ放送10周年記念作品にして、劇場版シリーズ初の原作者・尾田栄一郎が製作総指揮としてストーリー監修しているため、これまでの劇場版とくらべて原作との関連を強く意識させる物語となっている。
その際たるものは、金獅子のシキという敵の存在だ。彼は、かつて海賊王と鎬を削った豪傑だという。連載のほうで描かれなかった設定だとは思えないほど、いいキャラクターだ。声優の竹中直人もハマっている。
敵にも味方にも愛嬌があるのがワンピのいいところだけれど、コイツはなかなか陰湿な悪さで驚いた。世界の破滅を狙って生物兵器の研究をしているし、現住の未開部族たちを弾圧し搾取していたり、動機もプライドを傷つけられたことによる逆恨み。活劇の敵役然としたアウトローだ。
でも、子分との親子杯など形式ばった契約を重視する古風さや、他の選択肢を潰すことで相手の退路を断ち自らの意思で筋を通すよう仕向けるなど、行動が極道のやり口を意識させるため、一応は悪党なりの仁義に殉じているらしい。
今回は、敵に航海士としての能力を見出だされたナミが強引なかたちで連れ去られてしまって、それをお馴染みの仲間たちが奪還する話なのだけど、連載開始から10年以上もの月日を経たここにおいて、番外編となる映画でレギュラーキャラクターとの絆の危機を演出するのは、少し無理があったのではないか。
麦わらの一味の信頼関係は漫画本編で強固なものになりきってしまっているため、ここに葛藤を見出だす余地がない。もしかしたら彼女を助けられないのではないか、あろうことか見殺しになってしまうのではないかと、そういったスリリングな展開は期待できない。それならば、囚われの姫君の役割は劇場版オリジナルキャラクターに肩代わりさせたほうが潔かったと思う。
アーロン編みたいに、ナミがずっと望まない仕事を強要させられてるなら緊張も持続するが、実力を買われてのヘッドハンティングってことで厚待遇っぽいし、監視が甘くて一回は脱出が成功しちゃうのとかも、ラストで跳ね上がるためのストレスを蓄積しきれていない。
それに、金獅子はめっちゃ強いはずなのに、最後はなんか油断して負けてしまうので、全盛期もあんま大したことなかった疑惑が浮上。ロジャー世代のキャプテン・バギー枠だと理解した。
面白いのは、マフィア風のドレスコードで敵のアジトに討ち入りするクライマックス。時代劇・任侠映画ファンだという尾田っちは、とにかくずっと忠臣蔵がやりたくて仕方ない!
アーロンパークも、エニエスロビーも、マリンフォード頂上戦争も、ワノ国編も、規模は違えどぜんぶ討ち入りだ。潜入というかたちで忍び込んで奇襲をしかけるのか、真っ正面から啖呵を切ってカチ込むのか、大勢でいくのか少数でいくのか、バリエーションを変えながらパターンを繰り返してる。当代随一の少年漫画でありながら、古典的な様式を大切にしているように思う。
あとは、ショートヘアのナミがみられる劇場版はこれが最後なので、何回もえちえちの衣装に着替えてくれて嬉しかった。