鰯

鬼畜の鰯のレビュー・感想・評価

鬼畜(1978年製作の映画)
4.4
人は弱い

宗吉が妻のお梅と営む印刷屋に、菊代が訪れる。実は宗吉は7年もの間菊代と愛人関係にあり、3人の子供をもうけていた。その夜菊代は子供を置いて印刷屋を去ってしまうのだが、お梅は子供たちを毛嫌いし、宗吉に「何とかする」よう迫る。

貧しさとか惨めさとか醜さとか嫉妬とか、あらゆる点で人間の弱みが絞り出されていく。もう少し豊かだったら、嫉妬深くなければ、少しでも寛容さがあれば、違ったかもしれない。冒頭15分くらいで、宗吉(緒方拳)が「ああ、この人は多分この状況からは抜け出せないだろうな」と思わせるだけの詰め込み具合である。ここまで追いつめられると、誰だって「まとも」に生きることを許されないように思います。
子供を疎むお梅も同様に、とても弱い人間なのではないかと思います。直視しがたい弱さ。一瞬たりともやさしさを見せない徹底ぶりは、さすが岩下志麻さんだと思いましたが。

とはいえ、その弱さが全部子供への暴力として向かってしまう様はかなりつらいものがある。絶望的に救いがない。「いっそのこと死なせてあげたい」と思うほどの苦しさが最後まで続く。長男が「彼には決して手に入らないもの」を見ているときは、胸が痛みます。

赦しもなければ希望もない。その割に、それほど嫌な映画を観たという気分にはならないので、不思議な手触りでした。