プペ

カールじいさんの空飛ぶ家のプペのレビュー・感想・評価

カールじいさんの空飛ぶ家(2009年製作の映画)
3.4
個人的な話になるが、人生19年が経つ。
普段、このようなアニメーション映画を観ないのだが、昨日は何を思ったのか、気付けば本作のDVDをデッキにセットし、両膝を我が子のように優しく抱きながら鑑賞した。

歳を重ねるにつれ、すっかり″夫婦愛″等の″愛″を描いた物語に弱い。
映画の中で描かれるちょっとした夫婦の繋がりの描写に涙が出てくる。
「私には一生縁のないものなのだろうな」と、この辺りから殆ど口からエクトプラズムが完全に脱魂しかけているが、グイとそれを無理矢理飲み込んで鑑賞を続行。

それに加えて元来私は、″老人の涙″にめっぽう弱く、長い人生を生きてきたキャラクターが心情を吐露するシーンにはいつも胸が詰まる。
「私にはそんは思い出なんて何一つ持っていないのに」と、そこで二度目のエクトプラズム脱魂臨死体験を数秒間体験することになる。
だが、不幸にもそこでも死に損ねた私は、私自身のさえない、というよりもほぼ完全に無にも等しい人生に嘆くしかなかった。


そんなわけでこの映画、まさに感動ど真ん中の映画であることは容易に想像できた。
そして、主人公が最愛の妻と出会い、共に生き、別れるまでの年月をノスタルジックに描いた冒頭15分で、想像通りに目柱が熱くなった。

正直なところ、この冒頭15分間を観られたことだけでも、とても良かったと思うし、それだけでこの映画の価値は充分だとも言える。

しかし、15分を過ぎ、主人公のじいさんが妻と過ごした家ごと数百個のカラフルな風船で飛び上がっていくシーンをピークにして、この映画の感動は、皮肉にも徐々に下降していく。

決して映画が面白くなくなっていくということではない。
敢えて言うならば、映画の″種類″自体が変わってしまう印象を覚える。
冒頭15分が最愛の妻に先立たれた老人の切なさを温かく描いた作品であることに対し、それ以降は、老人があまりに現実離れしたアドベンチャーをこれでもかと繰り広げる作品となっている。

もちろん全編通して、妻と妻と過ごした大切な家に対する愛情が尽きることはないのだけれど、展開される「冒険」の内容があまりに突飛過ぎて、ファンタジックなアニメーションであることを考慮しても、その非現実さに対して感動を覚える暇が無くなってくる。

開き直って、相変わらずクオリティーが高いピクサーのアニメ映画として、その娯楽性のみを楽しめば問題は無いのだろう。
しかし、多くの人がこの作品に対して求めた世界は、やはり違うと思う。
プペ

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