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ある日どこかでのtakのレビュー・感想・評価

ある日どこかで(1980年製作の映画)
4.5
初めてレンタルビデオで鑑賞した日を僕は忘れられない。社会人になりたての頃だった。ずーっと観たかったこの映画をやっとレンタル店で見つけた。ところが借りたのはいいがあまりの忙しさになかなか観ることができず、返却日を迎えようとしていた。「早起きして観る!」そして夜明け前から鑑賞開始・・・。恋愛映画でこんなに泣いたのって初めてじゃないか?(当時)と思えるくらいに泣いた。泣いた。声が出そうなくらいに泣いた。そして泣きはらした目をして出勤・・・。それ以来、僕はずっと思っていたんだ・・・
「ある日どこかで」を映画館で観たい!しかもこの気持ちを理解してくれる女の子と観たい!・・・って。

そして「午前10時の映画祭」がやっとわが街へ、ラインナップに「ある日どこかで」が!正直、最初にラインナップ見たときに、「アラビアのロレンス」よりも観たい!と思ったし、「明日に向かって撃て!」よりも行かねば!と思った。んで、平日の午前中に行くチャンスがあったので映画館へ・・・あ、また出勤前だ(笑)。

自己催眠でタイムトラベルをするという確かに荒唐無稽なお話。初めて観てから20年経っているだけに、もっと冷ややかに観てしまうのだろうか・・・と思っていたが、意外にもかなり感情移入してしまった。この出演者やスタッフには、20年の間にいろいろなことがあった。ジェーン・シーモアは映画ではパッしなかったが、年齢を重ねた後、テレビシリーズで西部の女性医師として大人気を博した。クリストファー・リーヴは落馬事故で首から下が不随となってしまったが、不屈の精神で俳優としてできることをやる。ヒッチコックの「裏窓」のリメイクに挑んだこと、アカデミー賞のプレゼンターとして登場した姿は今も忘れない。そして2004年に惜しくも逝去。映画はその時の役者の姿を撮したものとは当たり前のことであるが、クリストファー・リーヴが生き生きとしているこの映画を観ると、その当たり前のことが実にありがたいことに感ずる。音楽を担当したジョン・バリーも今年亡くなった。今回改めて観て「ある日どこかで」は音楽が映画の評価を高めるのに絶大な効果があった映画だと思う。

密かにこの映画を愛している人はかなり多い。現実主義派からは小馬鹿にされそうな話ではある。だが、一切特撮を使わずにタイムトラベルものを成り立たせているアイディアや伏線の張り方の巧さ、気が利いたディティールなど映画の作り手が込めた愛情が銀幕のこっちまで伝わってくる。まだ作曲されていないラフマニノフのラプソディを口ずさむボートの場面。
「美しい曲ね。誰の曲なの?」「ラフマニノフ。」
「彼の曲は私も好きよ。でもそれは聴いたことがないわ。」「・・・いつか聴かせてあげるよ。」
未来を少しだけ示すタイムトラベルものの面白さ。だがそれだけでなく、その曲のオルゴールを特注させた、未来の彼女がどんな思いでラプソディを聴いたかと思うと切なくなる。クライマックスの自己催眠が解けてしまう悲しい場面。物言わぬラストシーンは、ベッドに横たわるクリストファー・リーブを俯瞰で撮す、魂が見下ろしているようなショット。だが、そのカメラが見上げた先には・・・。美しいラストシーンとジョン・バリーの主題曲。
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