カラン

しあわせのカランのレビュー・感想・評価

しあわせ(1998年製作の映画)
4.0
クロード・ルルーシュはずっと昔に『男と女』と『愛と哀しみのボレロ』を観て以来、後者を見返す程度だったので、久しぶりに新作。といっても1998年の作なのだが。ルルーシュはこの時、60才くらい。奥さんは20以上年の離れた、とても美しい人で、開脚の綺麗なダンサーの方。で、この映画ではその奥さんが主人公で、偶然に必然的なものとして出逢うのが、怪しい年増の芸術家もどきの男なのである。この男との出逢い以来、心の声が字幕で表示される。なぜか?なぜ心の声が画面に映るのか?

映画の内部でも外部でもこの女はルルーシュの妻であるアレサンドラ・マルティネスであり、この男はルルーシュの分身だから、心の声が見えるのである。かくて、この映画は非常にパーソナルな作品となっている。確かに、ルルーシュが好きであったか、この奥さんに共感できないと、この映画を好きになるのは難しいだろうが、まあ、映画に出てくる男たちが皆この奥さんを好きになるからといって、あざといとまで感じなくても良いと思う。この男たちは全員がルルーシュの分身なのだと思えばよい。この映画そのものがルルーシュから妻へのラブレターなのだ。あるいは生前遺言living willのようなものかもしれない。

僕が君より先に死んだら、君を好きだと思う男がたくさん君に寄ってくるから。だから、悲しまないで。その男たちは、全員が僕だから、悲しまないで。


原題は「偶然か、必然か」だが、もしこのタイトルならば、さらに観る人は少なかっただろう。どちらかというなら「しあわせ」のほうが映画の内容に適していると思う。
カラン

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