映画ネズミ

告白の映画ネズミのレビュー・感想・評価

告白(2010年製作の映画)
4.0
向いている人:①「イヤな感じ」「バッドエンド」の映画が好きな人
       ②『ごくせん』とは違う学園ドラマが観たい人

 学園ドラマというと、『ごくせん』とか『ルーキーズ』とか『野ブタをプロデュース』とか色々あるんですけど、だいたい、①熱血教師が不良学生を更生させて荒れた学校を再建する話か、②生徒同士がケンカしたり色々しながら成長する話のどちらかが多いですね(ちなみに私は『ルーキーズ』派です。)。

 でも、そのどちらとも違う「学園ドラマ」が、『告白』でした。もう10年前になるんですね。当時もかなり話題になりました。

 とある中学校。シングルマザーの教師・森口は、終業式を終えた生徒たちにある話を始める。「娘は、このクラスの生徒に殺されたんです。」そして、2人の犯人について語り始める。この瞬間から、クラスの人間関係は、破壊されていく。

 この映画、冒頭の「森口先生の授業パート」の感じ悪さがすごくて、後にもいろいろとイヤなことが起きるのですが、そのイヤな感じは、すべて冒頭のシーンの感じ悪さが根っこにあります。

 何しろ、松たか子さんの、口調は穏やかなんだけど、心は完全に死んでいて、目の前に人がいないかのような、独り言のような喋り方が、本当に素晴らしいです。恐ろしいです。

 中島哲也監督の映画は、他に見たことはありません。本作以降、『渇き。』『来る。』といった、どす黒いホラー的な映画を数多く撮っている印象です。おそらく、本作の狙いがバッチリハマったからでしょう。元CM監督らしい、たくさんスローモーションと、はっきりした色を使う

 さて、授業パートの後は、劣等感、孤独感、承認欲求、嫉妬、憎しみ、嫌悪といった、ネガティブな感情が次々とほとばしり、いじめ、引きこもり、家出、自殺未遂、毒薬など、鬱になるようなエピソードがてんこ盛りです。

 原作は、嫌な感じのお話を書かせたらピカイチの湊かなえさん(アリ・アスター監督とコラボしたら面白そう!)。この方、高校で非常勤の教師をされていたことがあるそうで。子供への目線、とても的確なものがあると思います。愚かで、孤独で、無邪気で、残酷な子供像。そして、「聖職者」たる教師の立場を逆手に取った森口の行動……。人間不信なのか!? と思いたくなるような作品ばかりですが、人間のダークサイドを、誇張しながらも、鋭く切り取っていると思います。HIVのくだりとかは、日本の性教育の現状を逆手に取る凶悪さがありましたね……。

 木村佳乃さんは、出てきた瞬間から、「あっ、感じ悪いことになる」と分かるようなキャスティングで、こちらも完璧です。岡田将生さんは、イイことをしているつもりなのにどんどん事態を悪化させていく、損な役でしたね。生徒役の橋本愛さんはじめ、2人の犯人役も、それぞれ個性があっていいと思います。

 2人の殺人の動機が、ハンニバル・レクターみたいに美意識に基づいていたり、あるいは復讐だったり、分かりやすい「ドラマのある動機」ではなく、本当にしょうもない動機なところが、とても怖いです。

 この映画、「母親と子供」という構図が2つ出てきて、その視点がそれぞれ違うのが面白いですね。①少年Aと母親の物語は少年A視点。②少年Bと母親の物語は母親視点。母親に認められたい子供と、子供を信じたい母親。この映画ではどちらも狂っているのですが、父親の存在感が一切ないのは面白いなと思いました。

 このお話全体が、母性と「子供性」の戦い、という印象でした。

 でも、自分は「誰かに認めてほしい」とかあまり考えなくて、毎日ダラダラ過ごしていた気がするので、思慮深すぎるのも考えものだな、と能天気に思いました。

 ラスト。詳しくは言えませんが、あの音楽の後味の悪さ。リドリー・スコットの『プロメテウス』でも感じましたが、「目も当てられない惨劇の後の、癒し系のピアノ音楽」は、もはや定番手法なんでしょうか。

 「命って大事!」って頭ごなしに言うよりも、よりもはるかに突き刺さる「命の授業」。是非、エアコンの効いた部屋でご覧ください!
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