はる

トリコロール/赤の愛のはるのレビュー・感想・評価

トリコロール/赤の愛(1994年製作の映画)
4.0
トリコロール三部作のラスト三作目。赤が意味するのは博愛。三作の中で最も純粋な愛が描かれているように思えます。
主人公である大学生兼ファッションモデルのヴァランティーヌは車でイヌを轢いてしまいます。幸い命に別状はなく、首輪に書いてあった住所に向かうと、出てきたのは偏屈な盗聴マニアのオヤジ。イヌをどうしたらいいか尋ねても「好きにしろ」とまともに取り合ってくれないのでヴァランティーヌは獣医の元へ連れて行き、自分の家で飼うことにします。それからこの第一印象最悪なオヤジとヴァランティーヌは次第に打ち解けていくのですが、その様子がとても面白いんですよ。
劇中では電話越しにしか登場しませんが、ヴァランティーヌの彼氏は相当束縛を強いるタイプでかなり嫌な男なのが見て取れますし、彼女自身もそんな彼氏に嫌気が差しているのが分かります。そして盗聴マニアのオヤジも過去に女性に裏切られたのをキッカケに女性不信に陥り、判事の仕事もやめ家に篭り盗聴に明け暮れています。親子ほど歳の離れた2人ですが、ヴァランティーヌとの出逢いを機にオヤジは盗聴を辞めて、彼女のショーに足を運んだり、パーソナルな話をして共に心を開いていきます。2人はデートをしたり、抱きしめあったりする事さえありませんが、確かにそこには愛情があって、そんな2人の関係を見ていると本当に心が温まるんですよね。
時折かなり大胆なカメラワークを入れ込んだり、物語的にもこの他にもう1人キャラクターが出てくるのですが、この人が後半機能してくると益々面白みが増していく特殊な構造になっています。
トリコロール三部作の三作の中で共通するシーンがあって、それは老人がゴミ箱にビンを捨てようとするも背が届かず中々捨てられないというシーンなのですが、それを目撃するそれぞれの主人公の行動が違うところが面白い点です。一作目のジュリーは傍観というか気にも止めない感じ。二作目のカロルはニヤニヤしながら見つめています。そして本作の主人公ヴァランティーヌは老婆に駆け寄り手を貸します。同じシチュエーションだからこそその人物の本質が垣間見えるとても興味深いシーンで、ヴァランティーヌはやっぱり抜群に性格が良いのが強調されました。
ビノシュは二作目でもカメオ出演してましたが、本作では一作目、二作目の主要キャスト4人がカメオ出演しています。この辺が監督の遊び心なのでしょう。ちょっぴりニヤッとしてしまいますね。
観る前はちょっと敷居が高いように思っていましたが、どれもユーモアに溢れていて、様々な愛の形を見てとれる素晴らしい三部作だと思いました。三作すべて本当に面白く出逢えて本当に良かった。愛は何よりも奥深いものなのだと痛感させられました。
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