Jeffrey

道のJeffreyのレビュー・感想・評価

(1954年製作の映画)
4.0
「道」

冒頭、ここはイタリア。旅芸人の男女。横暴な男に嫌気をさし立ち去る女。綱渡りの男の登場、道化の格好、裸馬、殺人、サーカス団、酒場での大暴れ、夜の海。今、幾年かの時が流れ、見知らぬ海辺の町に立ち寄った時…本作はネオレアリズモ最後のフェリーニの作品であり、アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞した傑作で、1954年にフェデリコ・フェリーニが妻であるジュリエッタ・マシーナとアンソニー・クインを主演に監督した彼の初期の大傑作で、この度BDにて再鑑賞したが見事に人間の無垢と罪悪と言う根源的な二元論のドラマが写し出されていて、素晴らしいの一言。また、ベネチア国際映画祭では銀獅子賞を受賞しており、キネマ旬報、ブルーリボン賞も受賞。どれほど日本でも評価が高いかがうかがえる。本作には吹替があるものの、現在権利元がそれを紛失してしまったため、聴くことができなくなっている。

今思えばフェリーニが単独で監督した長編映画3作目にあたり、前作の「青春群像」がベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞して欧米では名前が少しばかり売れていたが、日本ではまだ無名だったことを思い出す。本作は2度目の受賞で、出世作である。日本では3年後の57年に公開され、これがフェリーニ作品の日本初紹介で、若干34歳で撮り上げた映画である。確か日比谷スカラ座での公開だったような気がする。主題歌のジェルソミーナのテーマはNHK紅白歌合戦でも歌われるほどヒットして、日本で「道」と言う映画が広く慕われるようになる。当時のキネマ旬報ではビリー・ワイルダー、ロベール・ブレッソン、デビット・リーンなどの作品を抑えて見事に1位に輝いた(70票以上の圧倒的な大差で)。



さて、物語はここはイタリア。芸の手伝いをする女性が死んでしまったことから、旅芸人のザンパノはその姉妹のジェルソミーナをタダ同然で自分の奴隷にする。粗野で暴力を振るうザンパノと、知能的に難があるものの素直なジェルソミーナは一緒に旅に出る。彼女は道化の格好で芸をする。新しい生活にささやかな幸福さえ感じていたのだが、ザンパノの態度に嫌気が差し、街へと逃げていく。そこで陽気な綱渡り芸人イル・マットに出会う。ジェルソミーナはザンパノに連れ戻されるが、イル・マットのいるサーカス団に合流することになる。イル・マットはザンパノと古くからの知り合いらしく、ザンパノを逆上させる。ある日、我慢の限界を超えたザンパノはナイフを持って追いかけるのだが、その行いで逮捕されてしまい、サーカス団は町から立ち去らねばならなくなる…と簡単に説明するとこんな感じで、93年にフェリーニが亡くなり、翌年の94年にマシーナが亡くなってるのを思い出すと悲しくもなるが、初期の作品ではダントツに傑作だろう。


いや〜、相変わらず、フェリーニは夢や幻想と混乱するような鮮烈なイメージをぶち込んでくる。馬の登場など思いっきりそうだ。そしてクライマックスの波際に崩れるザンパノの姿を後退して撮るカメラがなんとも印象的だが、冒頭の炸裂するニーノ・ロータの、メロディがたまらない。冒頭のレストランでアンソニー・クイン演じるザンパノの真似事をするジュリエッタ・マシーナ演じるジェルソミーナが爪楊枝を口にくわえて真似事する場面はすごく可愛らしい。その後に違う女と夫がバイクに乗っていてしまい、1人その場に残された彼女の滑稽で哀れな姿も印象的。そんで夜の綱渡りのパフォーマンスは圧巻。そういえば確かジェルソミーナの名前は英米ではジャスミンと言う名前に変更されていたような気がする。ジェルソミーナと言うのはジャスミンの花を意味するためだと思う。ザンパノの名前の由来は豚足のソーセージから連想された名前だったような…。

最後に、本作がベネチア映画祭に出品された時に一悶着があり、その年金獅子賞の最も有力な候補は、フェリーニの「道」とヴィスコンティの「夏の嵐」だったのだが、「夏の嵐」はネオレアリズモの政党的後継者であり共産主義シンパであるヴィスコンティの作品として主に進歩的左翼から強く押され、一方の「道」は作中でジェルソミーナのが聖母子像に魅了される場面があることなどから保守的なキリスト教支持層から高い評価を受けたそうだ。ところが、審査の結果は、金獅子賞にレナート・カステラーニ監督の「ロミオとジュリエット」が選ばれ、銀獅子に「道」とエリア・カザンの「波止場」、溝口健二の「山椒大夫」、黒澤明の「七人の侍」がなんと4作同時受賞と言うことになり、「夏の嵐」はヒッチコックの「裏窓」と共に選から漏れてしまい、「道」のスタッフと「夏の嵐」のスタッフの間で小競り合いまで起こり、主演のジュリエッタ・マシーナは泣き出してしまったそうだ。

今でこそ最高賞が1回の映画祭で2人以上受賞すると言う事は滅多になくなったが、この時代と言うのは何作品も栄誉ある賞の受賞を与えまくると、なかなかありがたみがないものだなと感じる。2000年代に入ってベルリン国際映画祭で「千と千尋の神隠し」がアニメ映画として初の金熊賞受賞したが、確か同時受賞だった。それ以外は今のところ最高賞の同時受賞等はないだろう。まぁ、この話のトラブルは最高賞ではなくランク下の話なのだが…。そんで話はまだ続き、米国のアカデミー賞の授賞式に招かれたときの大騒ぎへと発展する。ベネチアとは全く逆に、マシーナを幸福の頂点に運んだそうで、「道」はロサンジェルスでは既に公開されていたから、道で会う人たちは彼女のことを誰なのかわかっていて、フェリーニが本当にサーカスで私を捕まえて、ピエロの格好をさせたと信じていたと発言している。観客は上映中に拍手し始めて、上映後にはやっぱりジャスミン、ジャスミンと歓声が上がったそうだ。
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