KnightsofOdessa

ザ・ロードのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ザ・ロード(2001年製作の映画)
4.0
[映画監督の推敲世界が良い] 80点

"作る映画すべてが傑作!"と紹介される映画監督の話。静かな車移動、川辺での殺人、帰宅したら見知らぬ男たちがいて画面外で殴られる、など前作『Killer』と全く同じシーンも散見されるが、この人は気に入ったシーンは何回も使い続けるので特に驚きはなし。ただ、"川辺での殺人"は映画内映画の一部分として、"どうやったら上手い表現になるか"という推敲を重ねていくように、様々なパターンで繰り返されるのが面白い。単純に撃って相手のマフラーが川に流されていくのか、近くにいた子供の投げたボールを取ったら撃たれてボールが転がっていくのか、犬の散歩をしている女性は映すのか要らないのか、等々考えるタイミングによって目に映る事物を取り込んでいって殺人シーンの表現手法のあれやこれやを考えていく様が面白い。暇な時間を使ってベストな表現手法を考え抜く感じはオミルバエフ本人を模しているのだろうか。彼の作品は毒にも薬にもならない唐突な夢オチ妄想シーンが多くて腹立つんだが、これは非常に面白い試みだった。

また、科学者やその発見は無価値とされている現代カザフスタンに薄く切り込んだ前作からその話題を発展させ、映画監督である主人公に"明白な評価基準のある科学は羨ましい"と述べさせているのも印象的だった。だが、素人エキストラにろくに説明もせずにエロシーンに出演させた上で、"芸術には犠牲が必要"と開き直るのはダメでしょ。散々プロデューサーが"この映画では…"と言っているのに、"映画は…"と主語をデカくして保身に走るのはダサかった。
"作るすべての映画が傑作!"と紹介され、自分のスピーチでも映画について熱く語った後の新作プレミア上映で全く関係ない古い中国映画が流れて、観客が気に入っちゃってプレミア上映がおじゃんになるとこ好き。
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