櫻イミト

アデュー・フィリピーヌの櫻イミトのレビュー・感想・評価

アデュー・フィリピーヌ(1962年製作の映画)
3.5
ゴダールとトリュフォーが“ヌーベル・ヴァーグの最高傑作”と絶賛したロジェ監督の長編デビュー作だが、興行成績が大惨敗で以後存在が忘れさられた伝説的カルト作。タイトルの“フィリピーヌ”はフィリピンとは関係なく、フランス女子の遊び——双子のようにくっついたアーモンドを見つけたら先に“ボンジュール・フィリピーヌ!”と言った方が勝ち——で用いられる仏女性名。

1960年パリ。アルジェリア戦争兵役を間近に控えたテレビ局カメラ助手のミシェルは、リリアーヌとジュリエットという仲良し二人組の18歳女子をナンパ。二人はどちらもミシェルに惹かれ、互いにデートの回数を競い合う。そんな折、仕事でヘマをしたミシェルはテレビ局を辞めてコルシカ島へのヴァカンスへ。そこへ女子二人組も彼を追って現れるが。。。

映画史上初の“女子映画”と定義しても良いだろう。先駆けてゴダールが初期短編「男の子の名前はみんなパトリックっていうの」(1959)で若い女性二人組の日常を描いているものの、本作に収められた“量産型女子”には現代にも通じる普遍性があり当時ゴダールが脱帽したのもよくわかる。他愛ないことではしゃぎ突然不機嫌になる、若く未熟な女子のオフショットを観ているような本作は、当時としては斬新でありヌーベル・ヴァーグの目指すところだったと思う。テレビ局あがりのロジェ監督ならではの即興演出が上手くハマった結果でもある。

前半は陽気な音楽にのってパリのオシャレな恋と青春が楽しく描かれる。しかし後半、ヴァカンスに行ってからは思っていたよりも盛り上がらない。直後に兵役に向かう男主人公の心情も重なり、物語は盛り下がって閉幕していく。ただただ青春の儚さだけが心に残る。

本作にポジティブな感想を持ったというレビューを多く見かけるが、個人的にはなかなかの鬱映画だった。キラキラしているように見えて、その実、内面の薄い若者たちの虚ろな青春像。その先に待つ不確かな未来に、闇に落ちていくような不安を覚えた。同じような内容の9年後の長編第2作「オルエットの方へ」(1970)で、この印象は一層強まる。

※ジャック・ロジエ監督は1926年生で本作完成は1961年(35歳時)
【参考】同年齢監督の同年の映画
アンジェイ・ワイダ゙「夜の終りに」(1961)
今村昌平「豚と軍艦」(1961)

※当時ゴダールが映画会社に推薦した3人の若手監督により3本の映画が制作された
「ローラ」(1960)ジャック・ドゥミ監督
「5時から7時までのクレオ」(1961)アニエス・ヴァルダ監督
「アデュー・フィリピーヌ」(1962)ジャック・ロジェ監督


ゴダール 1930年生
シャブロル1930年生
トリュフォー 1932年生
櫻イミト

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