イルーナ

紅の豚のイルーナのレビュー・感想・評価

紅の豚(1992年製作の映画)
4.5
幼いころ観たら「?」だけど、大人になってから観たらその良さが分かる。本作はその手の映画の代名詞的存在ではないでしょうか。
家にも本作のビデオがあったのですが、どうにも難しく感じてしまい、最初の方しか観ていなかった。トトロや魔女の宅急便はテープが壊れるまで何度も観たのに。
実際、初めて観た頃はジブリ=ファミリー映画というイメージがあったからなおさら。

しかし今になって観ると、とにかく気持ちがいい。
風光明媚なアドリア海を飛び回っている場面だけでも優雅な気持ちになれる。
ジブリ映画でいつも思うことだけど、水や空の表現、青の使い方が本当に美しい。
ああ、心が洗われる……
もちろん飛空艇描写のこだわりっぷりも見どころ。メカニックはもちろん、色んな角度からその魅力を見せつけてきます。

そしてキャラクター造形。
小さい頃はアクション描写に期待していたから地味に感じていたけど、登場人物皆、それぞれ背負ってきた人生を感じさせつつもとても温かい。
ポルコの設定で「なぜ豚になったのか?」はよく聞く話。本作がリアル寄りだから、尚更目立っている。
かつてはイタリア空軍のエースだったが、多くの仲間を喪い、戦争に明け暮れる世界に嫌気が差した。だから、人間をやめたのでしょう。
言動がいちいちカッコいいお方ですが、その背景からは現実を生き抜いて来た故の哀愁も漂っている。それがますます魅力的。
まあ、前述の疑問は考えるだけ野暮な話でもあるんですけどね。「豚になった」、その事実を誰もが当たり前のように受け入れている。
ホテル・アドリアーノのオーナー兼歌姫のジーナ。飛空艇乗りたちから愛されており、ホテルの半径50km以内は中立地帯となっているほどのカリスマ性。
本棚の裏に通信機器を隠しているあたり、やはりただ者ではない……
しかしこれまでに3回も夫を亡くすという波乱万丈っぷり。さらに裏設定によると、ジーナはアルゼンチン出身らしい(船にアルゼンチン国旗がたなびいている描写がある)。
アルゼンチンはイタリア移民が渡って出来た国ですが、わざわざそこから戻ってきた辺り、色々あったのでしょうね。あの国自体現在に至るまで困難が続いているイメージだから尚更。
フィオはポルコも認めるほどのエンジニアですが、少女ならではの溌剌さと初々しさが素敵。空賊たちもメロメロにしてしまうほど。
寝る前に昔ばなしをせがむ所とか、キスするところとかとても可愛い。
マンマユート団は子供たちを人質にとっても、仲間外れを作っちゃ可哀想という理由で全員連れて行くし、はしゃぎまわる子供たちをなだめすかす。とても悪役とは思えない憎めない奴らです。
ライバルであるカーチスはジーナに振られたら即座にフィオに乗り換えるという節操のなさだけど、ポルコを撃墜した時に飛行艇の残骸を拾って「アラバマのおふくろにいいお土産が出来たぜ」と家族思いな面を見せたりと、やはり憎めない。
本当にどのキャラも魅力的。

第一次世界大戦、世界恐慌……激動の時代を生きてきたからこそ、その言葉一つ一つに重みがあったり優しさがある。
「飛ばねえ豚は、ただの豚だ」が有名ですが、その他にも名言が次々に出てくる。

「豚に国も法律も無ぇ」
「マルコ……今にローストポークになっちゃうから。私イヤよ、そんなお葬式……」
「ここではあなたのお国より、もうちょっと人生が複雑なの」
「そういうのをな、アジアじゃ”ブッダに教えを説く”って言うんだよ」
「さっきの請求書、水増ししとけばよかった!損しちゃったぁ」
「気をつけろ、奴等は豚を裁判にかける気はないぞ。あばよ、戦友……」

ざっと抜き出しただけでもこれだけ心に残る台詞があって、どれもユーモアやセンスを感じる言い回しばかり。
やっぱり大人びた雰囲気だ。

盛大なバカ騒ぎだったポルコとカーチスの決闘の後の、どこか寂しい雰囲気。
その後も人生は続くという感じで、物語は締めくくられる。
この時代の後も第二次世界大戦があったり、さらに波乱万丈になっていきますが、皆それぞれの人生をたくましく生きていったんだろうな。
それを感じさせてくれる余韻がいいんですよ!個人的には続編が作られなくてよかった。