三畳

まぼろしの三畳のレビュー・感想・評価

まぼろし(2001年製作の映画)
4.7
心でずっと泣いてました。上に乗られて「あなた軽すぎるんだもの」と言って笑い出すシーンで心が泣いてました。同じ椅子に違う人が座ったり、同じ会話を違う人として噛み合わない、なんてことがつらすぎる。
まぼろしっていう日本語から私が連想する、儚くて手が届かなくてキラキラした残酷なもの、というイメージの全てが詰まってた。

時々ふと考えたくないような最悪の妄想をしてしまうことがある。愛する人がある日突然死ぬか、失踪するというものです。いくつもリアルなパターンが思い浮かんで、頭から振り払おうとしても、再生停止ボタンが壊れたホラービデオみたいに止められない。明け方1人で目覚める時が多いから妄想じゃなくて悪夢なのかもしれない。
アホなことだけど、枕に涙がにじむほど悲しみに沈みきってきると、これが現実なら絶対耐えられないと思うし、そうなった時の自分の行動を考えたらその日のうちに後追いする。そうなる前に頭がイカれる。情報の津波の第1波を塞きとめる本能としての防波堤、それを描いた映画だと思いました。

だけど、この映画の大事な見所に大人の官能シーンがあって、それは単なる性欲か肌寂しさかわからないけど、少なからず生の方向に引っ張られる本能がある。
だからボロボロでも全部受け入れなくても現実の体はちゃんと前を向けるように、そして生活がいつか心を満たしていくように、小さな希望に終着するのかな。と思いきや。

(そうなってくれるすごく良い映画にオドレイトトゥの「ナタリー」があって、あの前半の悲しみのどん底描写も個人的に心に響く。だからもし自分の辛い経験と重ね合わせてハッピーエンドを望んだことのある人にはぜひ見てほしい。)

私は今作のまぼろしエンドが大好きだな。全然、作風も重みも違うんだけど、忠犬ハチ公の物語をリチャードギアが演じた映画「HACHI」を思い出した。あの映画にも美しいまぼろしによる、主観でしかない、瞬間でしかない救いがある。
三畳

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