長谷川伸原作股旅物の定番を、成沢昌成脚本により忠実に再現された、充実期に達した中村錦之助主演、新進の山下耕作監督の、この正統派時代劇不滅の名作を、学生時、神田のうらびれた映画館で、柄の悪い観客に囲まれた中で初見。彌太っぺが、暮六つの鐘と共に飯岡衆が待ち伏せる二本松に向け道を歩き乍ら三度笠を投げ上げ、旅鴉としての最期を覚悟した瞬間エンディングとなったが、場内は嗚咽が止まらぬ感動の渦に包まれていた。その後、何度拝見しても感動は同じで、お小夜十朱幸代、森介木村功、旅籠女将夏川静江等の出演者全員の演技の見事さと剣戟の冴えには感服の他なし。