青野姦太郎

無宿者の青野姦太郎のレビュー・感想・評価

無宿者(1964年製作の映画)
4.4
1960年代前半の三隅は全て素晴らしい、これはもはや口にするまでもない事実である。だが、本作はそれらの作品群の中にあっても決して見劣りしない素晴らしい作品であるものの、ではどこが魅力なのかと問われると、「剣三部作」や「座頭市シリーズ」に比べて、その説明が非常に難しい。ある種不気味な作品として妖刀のように丁重に手を触れないように放置されているのも分かる気がする。それは本作が、ギリシア悲劇的とも形容可能なほどまでに運命に翻弄される―悪く言うならばご都合的な―脚本を採用していながらも、あるいは三隅の演出における大胆な省略が、もはや主人公と剣豪との一騎打ちを主観視点の移動のみで片付けてしまうような極北にまで達していながらも、決してそのことが欠点になっていないどころか、剥き出しにされた迫真性を有しているという矛盾をどう処理したらいいか、分からないからであろう。作品内の雷蔵も、「剣三部作」の主人公が「座頭市シリーズ」の世界に迷い込んでしまったような居心地の悪い感じを出していて、それが落ち着くところのない「無宿者」の寂しさに一役買っていたが、この作品自体もどこかそういう種類の魅力を放っているように思われる。