こたつむり

ウェルカム・ドールハウスのこたつむりのレビュー・感想・評価

ウェルカム・ドールハウス(1995年製作の映画)
3.5
★ 「じっと見る。未だ武器を持てない手をじっと見る。なんでこの手はこんなに小さいのだろう」

最後の最後までイタい作品でした。
端的に言えば、イジメられっ子の日常。
両親も学校も友達も。どこにも逃げ場所がない(あえて言うなら妹や年下の男の子が逃げ場所)そんな女の子が主人公なのです。

しかし、彼女は折れません。
同級生に「レ○プするぞ」と言われても。教師に「プライドは無いのか」と蔑まされても。集会の場で「ブス!ブス!」と連呼されても。屈することなくメラメラメラメラッと黒い炎を燃やすのです。

そう。これは後ろ向きの人生賛歌。
陽の当たる道ではなく、闇夜を歩く人たちへ向けた応援歌でした。

だから、とても静かな物語です。
劇的に何かが変化することはありません。
イジメられっ子の日常は、何処まで行ってもツラいことの繰り返しなのです。

しかし、劇中の彼女は気付かなくても。
観客からすれば、いずれ彼女にも“光”が差し込むことは判ります。それは雲の切れ間から覗く月。まんまるくて冷たい光が彼女を肯定することを…僕らは経験上、知っているのです。

これは見事なバランス感覚ですよ。
ギリギリの部分で現実感を喪失せずに物語を構築していますからね。

まあ、そんなわけで。
とても、イヤな題材を扱っているのに、どこか微笑ましく鑑賞できるのは、根底に“ポジティブ”な想いが流れているから。もしかしたら、監督さんも地獄のような日々を過ごし、そして抜け出したのはないか…なんて思うほどでした。

そもそも誰もが同じ方向に歩む必要はなく。
「全ての道はローマに通ず」とも言いますが、どこを歩いても終着点は同じ。無理に同調する必要はないのです。本作はそれを示唆してくれるのも良いですね。

ただ、人を選ぶ作品だとは思います。
主人公を生温かい目で見守ることが出来なければ…面白みを感じないでしょう。そういう意味では、傷ついたことがある人に向けた作品。リア充お断り、なのです。
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