風に立つライオン

ジャッカルの日の風に立つライオンのレビュー・感想・評価

ジャッカルの日(1973年製作の映画)
3.8
 フレデリック・フォーサイス原作、フレッド・ジンネマン監督の1973年の傑作サスペンス映画である。

 フランスの実在の右翼過激派で武装秘密組織OASのシャルル・ド・ゴール大統領暗殺未遂事件が元になっている。
 彼らの活動がほぼフランス官憲に筒抜けになっていた為に暗殺は外部のプロに頼まざるを得ない状況があって原作が生まれている。
 
 これに描かれているフランス官憲、特に警察の優秀性は驚嘆に値する。OASが雇った暗殺者「ジャッカル」を暴き出す捜査手法は黒澤明の「天国と地獄」を凌駕するほどの緻密さと粘り強さを以って描かれている。
 まだコンピュータが登場していない時代で閃きと勘が頼りのアナログ感満載の捜査手法が光っている。

 エドワード・フォックスことジャッカルが偽パスポートを作り出すのに、墓地にて自分の年相応な出生者でその後亡くなっている者を選び出生証明をとって旅券局へ申請するのに対し、警察は最近パスポート申請した中から既に死亡が届けられているケースがないかを役所の書庫で人海戦術にて探し出すシークエンスは実にリアルである。

 炙り出された犯人が何処かの宿泊施設に泊まっているであろうかと各宿泊施設から毎日宿泊者名簿を集める手法はPCがあればたやすいのにと思ったりもするが、捜査の地道さがにじみ出ている。
 内務大臣を囲む日々の会議では出席している関係官僚全員を盗聴して情報の漏洩先を突き止めたりしている。

 ジャッカルは下準備の中で極めて軽量でスマートな組立式ライフルを自己デザインして特注しているが、その理由が終盤に明かされることになる。
 出来上がったライフルの性能を確かめる為、市場で買ったスイカを郊外の森で試射に及ぶシークエンスは印象的である。スイカにペンキで印を付け遠距離から撃った破裂弾はスイカを粉々に粉砕し、その威力とドゴールの頭部を想像して生唾を飲む思いがする。

 そして解放記念日の朝、包囲網を掻い潜ったジャッカルはそのライフルを仕込んだ松葉杖で片足をなくした名誉市民を装いターゲットに近づくが‥。
 
 プロの仕振りと優秀なフランス官憲の対決はスリルとサスペンス性に富み実に見応えがある。