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パンチドランク・ラブのOotzcaのレビュー・感想・評価

パンチドランク・ラブ(2002年製作の映画)
4.6
ポール・トーマス・アンダーソンは今一番、私が好きな映画作家です

ただ、何本か鑑賞していないものがあるので新作『ファントム・スレッド』までに観ておこうかと

ミュージックビデオなどを除けば、複雑かつ長尺な映画作品が多いポール・トーマス・アンダーソンのキャリアにおいて、たぶん一番シンプルで短い作品

『パンチドランク・ラブ』というタイトルが全てを表しているように、これまたポール・トーマス・アンダーソンのキャリアでは珍しい純粋なラブ・ロマンス

情緒不安定な実業家の主人公を演じるのはアダム・サンドラーで、実に良く主人公の心のざわめきや暴発する様を演じています

まず冒頭、路上に置き去りにされていく壊れて音の出ないハーモニウム

なぜ、一体、誰が、何のために置いていったのかわからないそれは、しばし道路にポツンと放置されます

主人公のバリーは、食品メーカーのキャンペーンでマイルを上手く効率的に貯める事に夢中になり、プリンを買い漁りますが、ここには、地道に何かを積み重ねていく事を、ややもすると冷笑的に見てしまう現代への(しかし、実際にはこの冷笑的態度というのは2018年においては既に時代遅れになりつつある)皮肉なのかも知れませんし、マイルが還元されるまでの時間をやたら気にするバリーには、くだらないことで競うより着実な歩みを、とのメッセージが込められているような気もしてなりません

途中、バリーは軽い気持ちでセックスダイアルに電話をして、そこからトラブルになっていくのですが、ここには、現代人の抱える孤独と、それを利用(悪用)して稼ごうとする落し穴という、大きく見て二つの、ほぼ直喩に取れるテーマを読む事が出来ると思います

と、このように、ポール・トーマス・アンダーソンの作品はいつでも幾重にもテーマや暗喩が込められており、それらを一つ一つ一人一人がそれぞれの解釈で紐解いていくのも、また彼の映画の楽しみであり、醍醐味でもあります

さて、本作『パンチドランク・ラブ』に話を戻すと、これはもうタイトル通りというか、タイトルが全てを物語っています

まるで強烈なパンチを喰らったような衝撃的な出逢い=恋に落ちるという衝動

本作においては、パッと観ると、バリーがリナに恋をした、ようにも思えるのですが、最初に恋のパンチを喰ったのは、間違いなくリナの方なのです

自分は変わり者で孤独で理解者などいるはずがないと、半ば人間不信になっていたバリーを変え、突き動かしたのは、リナのバリーへの衝撃的で純粋な愛に他ならないのです

だから、これはクロスカウンターがお互いにキレイにヒットした、ということなのかも知れません

どちらが欠けても成立しない恋、当たり前ですけど

そこでまた、バリーの手によって直されたハーモニウムがラストで登場します

そのハーモニウムが、どんな音を奏でるのかはわかりませんが、ここで間違いないのは、バリーの壊れ掛けていた心も音の出なかったハーモニウムも、ようやく準備が整ったのだ、ということです

ポール・トーマス・アンダーソン作品としては、かなり観易いのでオススメですが、やはり序盤が勝負ですので、「イマイチよくわからないなあ」とか色々思いながらも、我慢して観ていただきたいなと思いますけど、私、別にポール・トーマス・アンダーソンの何でもないんですよね、ファンなだけで
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