♪ 逃げても追いかけてくる
ブルーな気持ちが
この胸にぴったりくっついている
1972年の作品…だから48年前。
なのに圧倒的な筆力。やはり、映画は技術“だけ”で作るのではなく、製作者の圧倒的な熱量が物語に息を吹き込むのでしょう。
何しろ、本作は骨太でシンプル。
山奥からカヌーで川下りをする…ただそれだけなのに、ぐわんぐわんと振り回されて呼吸は浅く、鼓動は速く。疲労感は溜まるばかり。
しかも、物語を支配する不穏は最初から醸成済。目に鮮やかな緑も。満点の星空の下で歌う展開も。開放的で楽しい雰囲気(キャンプに出掛けたくなります)の筈なのに、じとりとした湿気が足元にまとわりつき、イヤな汗が流れるのです。
勿論、CGなんて存在しない時代の作品。
激流(優しい流れのように見えても体感は違うため、安易な考えを川に抱くと危険です)に翻弄される様は迫力満点…というか、役者さんたちは本当に命を懸けています。
しかも、その物語を引き締めるかのように。
“大自然を壊す人間”という要素を一滴だけ混ぜているのです。いやぁ。これは巧みですねえ。隠し味(前面に出ていますけど)として見事でした。物語に深みを与えているのです。
また、主人公が“ヘタレ”なのも効きますね。
自らの存在が暗闇に溶け込み不安になる…そんな原始的な恐怖を体現してくれるのです。どれだけ逃げても世界は地続き。二本の足はぺたりと大地にくっついています。
まあ、そんなわけで。
彼らは“其処”から逃げることが出来るのか?
それとも“永遠の虜囚”となるのか?
狂気が支配した70年代の名作。
容易な着地点を期待してはいけません。また、鑑賞する際は人間の心理を撫で回す“粒子の粗い”フィルムに身を浸す姿勢をオススメします。何しろ、これが“生”の味ですからね。
そして、人間の罪とはいったい何なのでしょう?もしかしたら、それは自分自身で作り出す“毒”なのかも…。