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トレインスポッティングのkouのレビュー・感想・評価

トレインスポッティング(1996年製作の映画)
4.0
《何もしないことを選んだ》
1996年のトレインスポッティングの続編が今年公開されるという事で、大学生のころに見て以来久しぶりに見返した。今となってはダニー・ボイルの「スラムドッグ・ミリオネア」「127時間」「スティーブ・ジョブズ」と本当に素晴らしいなと思うのだが、ダニー・ボイル作品の中では初めて見た作品という事もあり、始め観たときは「うーん」という感じだった。今見返すと一風変わった青春映画として楽しめた。

アーヴィン・ウェルシュの同名小説の映画化であり、スコットランドを舞台に、ヘロイン中毒の若者達の日常を斬新な編集と見せかたで描く。彼らの日常は考えてみればとても悲惨だ。仕事をするわけでもなく、ドラッグに依存していく。映像こそスタイリッシュであるため、映画全体のトーンは落ちることはないが、彼らがドンドンと深みにはまっていき、笑えないほどの状況になっていく。ダニー・ボイルという人の技であるのが、それを青春映画としての面を持たせたところなのではないか。

何をするでもなく、何を選ぶのでもない。世間が求めるようなものに無関心な若者たちはドラッグに溺れて身を滅ぼしていく。逮捕される者もいれば、指名手配される者も、命を無くす者もいる。彼らはほかの青春映画のような友情で結ばれている訳ではなく、ただ怠惰に一緒にいる。そんな歪な関係なのだが、彼らを見ていたくなる。汚く利己的で、短絡的で無気力、それでも走り回り、ドラッグをやり、酒を飲む彼らの姿に何故か輝きすら感じることがあるのだ。

特にラストシーン。あの名曲Born Slippyとともにレントンが決める決断。何かを選ぶことを決断した瞬間に爽快感にも似た感情が生まれるのは、やはりこの映画がカルト化していった理由なのだろうと思う。そしてそこには音楽の影響も大きい。90年代の映画だなとつくづく思った。今年の続編が楽しみだ。
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