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暗黒への転落のコハクのレビュー・感想・評価

暗黒への転落(1949年製作の映画)
3.9
ニコラス・レイ作品もこれで4本目の鑑賞。法廷論争という形式をとっているものの、純然たる法廷モノとして観ると面白くない。検察もボギー演じる弁護士も時に饒舌だが、決して論理の組み立て方であっと言わせるタイプの映画ではない。
むしろテーマは論理以前の感情である。貧民街の不遇な青年を、たとえ何度裏切られても支え続ける弁護士。結論として当人がシロかクロかはさておき、性急にワルモノと決めることなくまずは彼らに寄り添う度量の尊さを、ボギーの一見無粋だが人間味のある演技が際立たせる。
『夜の人々』や『理由なき抵抗』に比べるとかなり荒削りの映画だが、ラスト20分の展開と緊迫感はさすがニコラス・レイ。そして冒頭の夜の街の警邏の場面と、最後のシーンの光と闇の使い方がすごい。オーソン・ウェルズの『オセロ』(1952)の終盤と同様、神秘的な荘重さの中に一種暴力的な躍動を孕んでいて、カラー映画に慣れ親しんだ我々の目には極めて斬新に映る。

▼ここからネタバレ。
シナリオの白眉はなんと言っても最後のどんでん返し。実はボギーが弁護していた青年は弁護士に嘘をついていて、実は本当に事件の犯人だった。ここにきて映画は「社会から周縁化された人々をどう包摂するか」というテーマを一挙に極大化する。ほら見たことか、悪い若者たちに甘くすると自分が馬鹿を見るんだと言わんばかりの厳し視線に対し、ボギーが社会の責任を訴えて酌量を求める演説は重い。死刑台へ向かう青年の背中を見守るボギーと、そんな彼を支える妻の微笑みが胸を打つ。

4/4
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