なべ

オー!のなべのレビュー・感想・評価

オー!(1968年製作の映画)
4.0
 ベルモンド傑作選2本目は、ロベール・アンリコとジョアンナ・シムカスの青春三部作の最後の一本「オー!」。今回の傑作選で一番のお目当て。

 ああ、最高じゃん!今のフランス映画が失った役者の個性がたっぷり。大したことない話を演者のクセで奥深く見せるって凄技。いや、フランスの映画職人たちのこだわりなのか。
 演技が、風景が、台詞が、なんだか鼻の奥がツンとするような切ない気配がフィルムに封じ込められていて、今なおその切ない成分は有効なのだ。始まった途端、あの頃のあの気分に引き戻されるフィルムマジック!
 でも、これってあの時代を経て今を生きてるから感じるものなのかも。初見でこれを観た人が同じ境地にたどり着けるのだろうか? 初めて観た若い人の意見を聞いてみたい。

 オー!は、レーサー崩れの逃し屋が暗黒街のカリスマ強盗にのし上がる話なんだけど、ピカレスクロマンでありながら青春映画でもあるという塩梅が何ともいい味わい。このいびつさを孕んだ役どころをベルモンドが絶妙なバランスで演じている。てかこれって彼の地だよね。この憎めない人たらしな一匹狼は。
 テーマはチンピラの驕りと破滅ってシンプルなものだけど、「勝手にしやがれ」や「気狂いピエロ」ほど文芸に走ってなくて、もっとエンタメ寄り。だけどハリウッドのような紋切り型な流儀とは違ってもっとノリやムードを重視したつくり。これがたまらなく美味。
 もちろんジョアンナ・シムカスはきれいだ。きれいなんだけど、実際のところかわい子ちゃん以上のキャラの深みは与えられてないんだよね。それでも破滅の波に飲み込まれてしまう様はやっぱり印象的で切ない。
 当時の仏俳優は時代を纏うのがとても上手だったと思う。社会や文化の息遣いといったものを驚くほど素直に体現している。不満や憤り、閉塞感などをストーリーの行間にうまいこと塗り込めて、話以上の価値をつくり出していたのだ。残念ながら今のフランス映画にはもうないテイストだけどね。
 話が雑だと気になって先に進めない映画があるけど、それとはまた違う、雑さを感じさせない、むしろ味と思わせる説得力がこの頃のフランス映画にはあるんだわ。
 きっと客観的にはこんな点数じゃないんだろうけど、本作を観ることでいろんな思いが湧いて出てきたので、うん、この点数でいいや。

 それにしても大頭脳に引き続き、印象的な脱獄シーンがうれしい。「ルパン三世の脱獄のチャンスは一度」は、このオー!あたりがモチーフかな。
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