阪本嘉一好子

キクとイサムの阪本嘉一好子のレビュー・感想・評価

キクとイサム(1959年製作の映画)
5.0
『アメリカの家庭へ養子縁組』 当時はこういう形で、養子縁組をしたんだと思った。現在、日米の里親制度はないと思う。例外はどこにでもあるのでご承知を。 中国からはかなりの子供、特に女子が米国へこういう形で入っている。終戦後、日本人が女性で米国軍人の子を身篭った場合がどのケースよりも多いと思う。白人、黒人、など、生まれた子供がアジア系に見えない場合、このような養子縁組が行われたのかもしれない。日本で、いじめにあったり、生きにくいという不当な理由ばかりでなく、経済的に子供を養っていけないという理由も含めて。歴史を紐解く必要がある。

キクとイサムはたまたま、黒人と日本人のダブルで生まれてきたわけだが、一歩、部落を抜け出て、他の部落に行ったり、町に行ったりすると、好奇心の目が二人に注がれる。 現在でも、このような共通点はあるし、『日本語が話せる』と人々は驚いたりする。それに、祖母と医者に行った時、キクは屋台のクシをじっと見つめたり、初めて見るものへの好奇心が強く、立ち止まって、じっと見ている。 キクを見ている人々はキクを凝視して動かない。この対比に興味があった。人々の中には差別意識がなくても、初めて見るキクに対して、目をそらさない。現在で言えば、マイクロアグレッションである。
第2次大戦後の進駐軍は『戦争の花嫁』といって日本人女性を米国に連れて行ったケースも多いが、このようにキクとイサムの母親のようなケースもあるだろう。

その後の展開で、好きなシーンはこの二人の子供をどうするか、アメリカの里親からの手紙を読んで、家族や近所の仲良しと討論するところである。もちろん、このように多面的な話し合いになって当然だが、せいじろうさん(清村耕次)は新聞を読んで、米国社会情勢(英語?)も把握しているところが素晴らしかった。当時、米国では公民権運動すらも通っていなかった。 マッドバウンド 哀しき友情(2017年製作の映画)の映画を見れば米国の状況も推測がつく。 軍隊はすでに、1948年にトルーマン大統領の命令で黒人白人はいっしょに働くことになっていた。だから、日本在住進駐軍はひとまず、人種を超えて交わり始めたかもしれない。しかし、現実のアメリカはジムクロウ法の真っ只中で、日本人がアメリカ人と結婚して、米国に行くことは差別の中を突き進むことで、抱いている夢は程遠かったと思う。白人は有色人種と結婚が出来なった州も多くあった。せいじろうさんがどのあたりまで知っているかは別として、彼の危惧も理解できる。それに、今井監督のこのシーンの配慮は素晴らしいと思う。ただのお涙上第映画にしていないところが好きだ。

もう一つ、この映画は公開が1959年なので、明らかにそれ以前の社会情勢をもとにしている。家族の食生活は貧しく、コメと大根とお茶のように見受けられる。 太平洋戦争敗戦後の一般市民の生活は大変だったんだな。戦争は恐ろしいね。 私は個人的にチェゲバラの『モーターサイクルダイヤリーズ』を読んでいるがこれは1952年の話でモーターサイクルでブエノスアイレスからカラカスまで旅をする話で社会情勢を描いている。途中、アルゼンチン、チリ、の家庭に招かれるチェと親友アルベルトの食事は特別だとはいえ、肉、野菜、果物、穀物、ワイン、チーズなどが豊富で、驚いた。改めて戦争の悲惨さを感じる。