えんさん

王様のためのホログラムのえんさんのレビュー・感想・評価

王様のためのホログラム(2016年製作の映画)
3.0
大手自転車会社で取締役だったアラン。しかし、彼は自転車生産を海外に移転させたことによって、業績悪化の責任を負わされ、仕事も家族も失った。その後、アランはIT業界に転職する。だが、その転職もアランの才能を買われたわけではなく、彼がサウジアラビアの王族と親しくしていたという、半ば作り話的な話が信用されただけにすぎなかった。そんな彼は会社の命運をかけた3Dホログラム装置を売り込むため、サウジアラビアに向かう。しかし、アラビア独自の異文化に直面し、悪戦苦闘していく。。トム・ハンクスが「クラウド アトラス」のトム・ティクヴァ監督と再び組んだコメディドラマ。

世は、グローバル社会。それは経済の世界も然りで、マネーや資源があるところに大きく資本が動いていく。しかし、そんなグローバルな世の中でも、必ず衝突するのがローカルな(地元)の文化や商習慣との衝突。本作のようにアラブ世界にはアラブ世界の生き方があり、そこで商売をしていくのは、彼らの文化に合わせていかないといけない。文化に合わせると一言に括ってしまうが、それが意外に大変なのだ。待ち合わせ時間に来ない、いないといって実はいたり、よかれと思って書いたことに憤慨され、送ったメールに返事はなかなか来ない、、そうしたリズムに合わせていくことはシンドいのだが、ビジネスを進めるにはシンドいなんて言っていられない。そこで本作から提案されるのは、ビジネスの固定観念を捨て、とことん彼らの生き方を楽しむこと。彼らの生き方のリズムが同化したときに、実は不便なアラブの生き方に魅了されてしまうといったこともあるのだ。

トム・ティクヴァといえば、「ラン・ローラ・ラン」で衝撃的なデビューを飾ったことが印象に残っている監督さんです。ただ、走る女性ローラの生き方を様々な視点から見つめることで違う観点の人生を描き出すという奇作でしたが、実はこのティクヴァの視点が本作にも活かされていると感じるのです。本作はグローバルな世界での物事を語っていますが、例えば、同じ日本の中でも、エネルギーや医療、教育、飲食等々、様々な産業がある中で、それぞれの分野では物事は違った価値観で動いていると思います。普通にサラリーマンをしている人に、コックさんの生活は分からないだろうし、医者には原子力現場で働いている人の悩みは分からないでしょう。こうしたところにはそれぞれの壁があるのですが、でも同じ資本主義の中でビジネスをやるフレーム上では、その壁を取っ払って話をする必要もある。違う分野のことを理解するのは、まず同じ人間だというところに立ち戻って、その人の生き方を尊敬し、真摯に見つめることが必要なのです。そして語らうまでになるのには、想像の世界でも、その分野の人になりきるくらい同化して楽しまなくてはならない。すごく婉曲的ですけど、本作のメッセージはそんなところにあるような気がするのです。

まぁ、そんな難しいことを考えなくても、アラブの世界の常識・非常識を知るために、旅行気分で観るにも一興な作品だと思います。表現が難しいのですけど、何か楽しいビジネス旅行に連れて行ってくれるような気楽さも同居しているのですよね。特筆するところはない作品ですけど、嫌いになれない雰囲気をもった不思議な作品だと思います。