LalaーMukuーMerry

大樹のうたのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

大樹のうた(1958年製作の映画)
4.3
インドの名監督、サタジット・レイの初鑑賞。「大地のうた」「大河のうた」と合わせた三部作のうちレンタルできるのはこれだけだったので仕方なく第三作から。(第1,2作を見れるのはいつのことやら?)三作通じて主人公オプーの少年時代からの成長が描かれているらしい。
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60年も前のこの映画に描かれた当時のインドの風景を見ると、これは貴重な作品だと感じる。シタールのインド音楽もとても雰囲気がある。経済が発展し暮らしぶりは変わっても、昔も今も変わらないのは夫婦、親子の間の絆とか、屈折した思い。
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私の名はオプー、大学2年を修了したが、授業料を払えないのでやめることにした(私は、父も母も子供の頃に亡くし、姉も死んでしまったので天涯孤独なのだ)。一人暮らしをしている集合住宅の家賃もだいぶ滞納しているので、仕事を探さないと。隣近所の人たちは気さくに声をかけてくれるいい人たちばかりで気に入っているのだが、大家がうるさいのがたまに傷だ。
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大学をやめたら鉄道会社に就職するはずだったのに、ストのせいでできなくなってしまった。他の仕事を探してみたが、大学2年修了の高学歴の肩書では給料が高くなるので雇ってくれる所はほとんどなく、仕事はなかなか見つからない。小学校の先生の職も大学入学だけの者でないと雇わないと言われた。
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仕事が見つからず毎日を無駄に過ごしていたある日、友人のプルが訪ねてきた。プルは技術系の学生だが、私の短編小説を最初に読んで評価してくれたいい奴だ。田舎の伯父さんの家でいとこの娘の結婚式があるから来ないかと誘ってくれた。
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プルの伯父の家はお金持ちの大きな家で、豪華な結婚式の準備の最中だった。花嫁の母に紹介してもらうと、彼女は私のルックスが気に入ってくれたようだ。花婿が籠にのって長い行列をつくって花嫁の家にやってきたのだが、家につくなり花婿がまともでないことがわかり、結婚式どころではなくなった。昔からの言い伝えによれば、結婚式が予定から遅れると花嫁は呪われるという。花嫁の母は結婚式を中止するよう花嫁の父に訴え、父親は途方に暮れてしまった。
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そんな窮地を救うのは私だということに、なぜだかなったらしく、プルからぜひ婿になってくれと頼まれた。とんでもない! 全く知らない娘といきなり結婚だなんて時代錯誤も甚だしいと断ったのだが・・・
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花婿の行列が帰っていくのを眺めているうちに、この申し出はOKしてもいいんじゃないか? そんな気になってきた。
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新婚初夜、花嫁化粧をした娘オポルナと私は初めて話をした。
「僕のことをプルから聞いているかい? 僕には何もない。君には立派な家がある。貧しい夫といっしょになっても平気かい?」
「大丈夫」と彼女ははっきり答えた。その笑顔がとても美しかった。
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翌日、私はオポルナを連れて町に戻り新婚生活が始まった。私たちは自分で言うのも何だが、とても仲のいい夫婦だった。仲良く食事をし、いたずらをしあった。私は文字を彼女に教えてあげたので、彼女は私に短い手紙メモを書いてくれるようになった。オポルナの家事が大変そうだと、かねてから思っていたので、ある時、使用人を雇おうと提案すると、彼女はお金がかかるからいいという。
「家庭教師の仕事を増やすから大丈夫さ。」
「なら実家に帰る。」
「・・・?」
「仕事を減らして。 そうしたら一緒に長くいられるから」
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オポルナのお腹に新しい命が宿った。彼女は男の子だという。出産の2か月前、彼女は実家に戻ることになった。汽車でお別れする時、私たちは週に2回手紙を書くことを約束し、その通り彼女から短い手紙が定期的に来るようになった。彼女の手紙はとても可愛らしい内容だったから、私は早く迎えに行きたいと思いが募った。
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けれど、その日が来ることはなかった・・・
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今の生活水準から見れば、とても不便で貧しい暮らしでも、幸福の感覚は時代や国や越えて共有できるのですね。前半の可愛らしいお話はとてもいい感じ。でも後半は打って変わって暗い雰囲気になり、不幸な出来事のせいで、生まれた子供を素直に受け入れられない父親の心情が描かれます。
印象的なエンディングでした。