shikibu

恋文のshikibuのレビュー・感想・評価

恋文(1985年製作の映画)
5.0
2020.05.04再見
現時点の神代ベスト。
神代っぽくないと言われてるし、それには首肯する部分もあるが、どうしようもない男女の関係、いや人間というどうしようもない生き物を、取っ組み合うように描くという点においては、やはり神代映画といわざるをえない。まともじゃないショーケンに対して、まともたらんとする倍賞美津子の姿が、病院の屋上での3人の端正な動線設計から、そこで吹かれる「まともじゃない」風がショーケンと高橋惠子の、逆光の中での激烈なキスシーンを呼ぶ一連の演出など、「まともな」映画と「まともじゃない(神代は気狂いとインタビューで言ってたが)」映画をいったりきたりするダイナミズムと重なり合う。高橋惠子に奥さんだって知ってましたよと告白されるシーンで笑いながらセリフを言う倍賞美津子や、ビールと一緒に包丁を持ってる倍賞美津子をまるごと抱きしめるショーケンや、暗い面会室で電灯を落としながらショーケンに「戻ってきてよ」と伏しながら声を絞り出す倍賞美津子や、与えられたセリフに対して、人間のどうしようもなさみたいなものが、役者の演技からその演出から、より激しく、心をかきむしるように、にじみ出てくる。人混みを逆行する2人とか、浜辺で向かい合うように座りながらハーモニカを息子にふかせるショーケンとか、ほかの神代作品でも見られる詩情が、比較的落ち着いたこの映画の作風からも感じられるのである。

以下、おもいついたこと
冒頭のマンションの窓辺に絵を描くショーケンと流れるテーマソングだけでもってかれる。窓に描かれる絵は、やがて倍賞美津子によって拭われるのだが、その拭うという動作は、二度はさまれる、恋敵の高橋惠子の前に出るときは鏡の前で口紅を拭くという動作に呼応するのかと考えた。
山根貞男はこの映画の評論で、これは大人の男女の三角関係を描いてるだけでなく、そこにその関係を理解できない夫婦の息子を混ぜた四角関係ではないのかと推測していた。倍賞美津子が高橋惠子の病室を始めて訪れるシーン。別の病床の見舞客なのか子供が遊び回ってる音がオフスクリーンで提示されるが、これは息子の存在をほのめかしているのではないかと推測した。
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