継

乾いた花の継のレビュー・感想・評価

乾いた花(1964年製作の映画)
5.0
“もう朝なんて来なくてもいいわ 私,こんな悪い夜が好きよ…”
  
刑期を務め, 東京へ戻って来た村木(池部良)と
良家の育ちのようだが日常に退屈し賭博のスリルに魅了される冴子(加賀まりこ).
賭場で出逢った二人は日常で得られぬスリルを求めエスカレートし, 格式も掛金もより高い砂町の賭場の敷居を跨ぐ.

降り立った駅が上野である事が “網走” からの遠路を想像させるが, 言わなくても判るだろうとばかりに言及はしない。
生気のない群衆, 走り去る霊柩車に村木のナレーションが被さる冒頭から既にノワールの香りが漂う, 篠田正浩1964年の作品。

📀
myプロフィール画像↑に載せたcriterion盤Blu-rayで鑑賞。
輸入盤なので日本語字幕が無いのとパッケージやリーフレットが英語なのはデメリット, 国内盤に比べ明るい画質・クリアな音声と独自の特典映像や優れたパッケージデザインが今作のメリットと言えます。

戦時中の思想弾圧で拷問を受けた若槻茂(『人間の條件』)プロデュース。若槻+原作石原+監督篠田+音楽武満というラインで,既存の任侠映画とは異なるアプローチでヤクザを描かんとした作品。

(村木が服役中に)第3極となる関西の組織が台頭し,これに対抗するべく敵対していた組と手打ちをした己の組。
凌ぎを削った敵が味方へ様変わりした世界に居場所を見つけられない村木の姿を,石原慎太郎の原作は米ソの冷戦構造の谷間で生き方を決められない戦後日本の知識人になぞらえたものになっている。

“松竹が推す佐田啓二より落ちぶれて世間が忘れた役者を探した, ミッキー・ロークみたいな(笑)。長台詞を覚えられず干されて腐ってた池部はその点ピッタリだった…”
“撮影規制が多い東京は避け, 売春禁止法下で閑古鳥が鳴いてた横浜の売春街を砂町のロケーションに使った”
キリスト教,イエスへの言及は後に撮る遠藤周作『沈黙』へ繋がる,この監督の思想が垣間見えるものだし, 特典の監督インタビュー(21min.)が興味津々。

武満徹によるフリージャズなテーマ,シュトックハウゼンも使ったNHK電子音響スタジオで作り上げた不協和音サウンドは, 場の緊迫を逆撫でして憚らず, クライマックスでは逆に事に及ぶ村木に端正なオペラを被せて優しく包み込まんとするかのよう。

criterionは,作品によっては国内盤と変わらなかったり,明る過ぎて黒色が薄かったり,左右の端が切れてたりするモノもあるらしいので一概にオススメは出来ませんが,今作は○でした。


🎴
片方の肩に上着を掛けて隠したその懐で札を引く親の所作, その色気ー.
勝負を急かすように手中の花札を鳴らして弄ぶ, その硬い “カチカチ” という乾いた音が印象的。
札を決める親の胸中や傷(=癖)を読む, 無駄な要素や偶然性を極力排した究極の心理戦。阿佐田哲也や安部譲二をしてあらゆるギャンブルの中で随一と言わしめる手本引き。

白熱する賭場に冴子のような若い女は本来なら場違いで浮いてしまうところですが, 加賀まりこは場に馴染むのではなく際立って浮いた存在のまま賭場の面々の訝しげな視線を跳ね返す強さを持っていて。
自ら触媒となって場の空気を変えその存在を認めさす,納得させてしまう力を有していました。
↑冒頭は, 賭場からの帰路に,オープンカーで首都高?を飛ばす冴子が解放感から村木へ漏らす台詞。張り詰めた糸が弛んで解き放たれた緊張→緩和の快楽。なんならこの台詞聞くためだけにでも観る価値あったかもしれない(笑)
継