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Dolls ドールズのarchのレビュー・感想・評価

Dolls ドールズ(2002年製作の映画)
4.7
男女を繋ぐ赤色の糸、それはどこか楽観的な運命を連想させてロマンチックだ。しかしその糸は片方が倒れれば、もう片方も倒れるように運命共同体として不幸すら共有してしまう。
三組の男女の歪な運命的関係は決して楽観的ではなく、残酷な過ちと後悔の物語に仕上げている。その残酷さは武監督曰く「これまでで最も残酷な作品」といわしめるほど。
本作は「あの夏」以来の恋愛ものではあるが、それと同時にしっかりとした初の群像劇になっていて、赤というイメージカラーと相手への強い感情に人生が壊れてしまった経緯が共通している。
そのどれもが語るのは愛の暴力性であろう。
例を挙げるならば、
「松本は裏切ったことにより、佐代子は壊れてしまい、挙句に結局佐代子の元に戻って飛び出してしまう。」
「ヤクザの親分は昔の恋人に思いを馳せ、ふと思い出のベンチに向かうと変わらずそこで待つ彼女がいる。」
「アイドル人生から転落したアイドルに今も憧れ、自らの目を閉じてまで会いに行こうとする」
これら三つの出来事はどこか運命を感じさせ、美しいもののようでありながら、とてつもなく残酷で暴力な出来事で、それぞれに死という結末が与えられている。

これまでのキタノブルーを排し、本作は秋から冬にかけての物語であることもあり、"キタノレッド"という感じで、本作がこれまでの作品と比べて異質な作品であることが分かる。

箇条書きで申し訳ないが、もう一点。本作のタイトル「Dolls」とは何なのか。もちろん最後まで見れば、松本二人を指すことは分かる。だが、本作残りの二組にとって人形とは何なのか。アイドルという概念、運命に翻弄された良子、そういった何かにずっと支配され振り回されている様子が冒頭の人形劇に重なるからなのではないか?正直強引にも感じるが、しかし全体にある台詞の少なさから来る"見えざる作為的な何か"によって翻弄される様は確かに人形劇のようではあったな思う。

異質だが、しかし武作品でかなり好きな一作だ。
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