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戦争のない20日間のpikaのレビュー・感想・評価

戦争のない20日間(1976年製作の映画)
4.5
徹底的にリアルな音を追求したとされる音響効果や、カメラの前を遮る人々、咳やクシャミをする人々など後期の研ぎ澄まされた作家性の一端を垣間見る。
それまでその世界にない所謂BGMは鳴らさず、回想シーンなどもなく淡々と感情移入もさせず俯瞰で突き放す演出で見せ、ここぞと言うポイントで音響効果を排し鳴らす音楽に感情を込め、今立つ現実と自分の現実の境界線が曖昧になる瞬間に映し出す記憶が、主人公の言葉にできない感情とリアルを浮かび上がらせる。

従軍記者である主人公のロパーチン少佐が前線から20日間だけの休暇をもらい離婚をするために妻の元へ行く道中に、前線から最も離れた銃後の人々と前線の兵士達の様々な関係を見聞きしたり自身も恋に落ちたりする。
作り尽くされたようなテーマではあるが、徹底したリアリズムとつかみ所のない主人公の無感情で無感覚な姿が戦争によって生まれた「日常」という価値観の差異を見事に表現し、戦争が日常に変わってしまった者と戦地に家族を送り出した人々の日常の変化を淡々と映し出す。

クライマックスの人間らしさを取り戻したかのような感触、ラストシーンで息を吹き返したかのように生き生きとしてしまう爽快さなど、俯瞰で映す主人公にいつの間にか感情移入していることに気づかされたとき、戦争の生むリアルな悲劇を体感させるための感情誘導の演出だったのだと衝撃を受けた。傑作。
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