Azuという名のブシェミ夫人

召使のAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

召使(1963年製作の映画)
4.0
裕福な青年トニー。彼に雇われた召使バレット。
二人の関係がやがて不穏で複雑なものに変わっていく様を、じりじりと描いていく。

私の様な庶民にはあまりピンとこないものだけれど、ごく当たり前のようにそこに存在している主従の関係。
何を言いつけてもこちらの要望に恭しく応えてくれる存在を、意識下では見下していたはずである。
しかし“無遠慮”というのは、語弊があるかもしれないけれど、ある種の“親密さ”を生むと思うのです。
親密っていっても別に仲良しこよしーってことでは無いですけどね。
親密になり、やがて無遠慮になるというのはまぁ熟年夫婦なんかにもよくあることで、それとは逆行の流れもまた然りなのではないかと。
相手の意向を慮らず発言したり行動したりというのは、一種の甘えでしょうからね。
それってある意味自分の本質を曝け出しているのでしょう?
ましてや、隷属している側がそのことに気がついて利用しようとした場合には、大きな弱点にすら成り得る訳で。
そのあたりの微妙で繊細な感情のラインを、いやらしいまでにじっとり見せつけてくる描き方です。
後味がもうなんとも言えない。
心がざわついて仕方ない。ざわざわ。

別にはっきりとそういう描写があるわけでもないのに、英国紳士ふたりの雰囲気にどことなくセクシュアルな匂いがするところなんかも、妙な背徳感。
あの家の中だけ浮世離れした様な謎の退廃した空気が流れているんですよね。
煙草の煙、影、鏡や扉が印象的に映し出されていて、非常に美しい。
私は“不気味さ”を表現する際には、まるで対極と思われる様な“美しさ”が同時に存在していて欲しいと思っている人間なので、この世界観にしっとり浸りきることが出来ました。
心地悪さに、心地好く浸る。
矛盾しているけれど。

かくれんぼって、やっぱりちょっとホラーだよね。