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アバウト・シュミットのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

アバウト・シュミット(2002年製作の映画)
3.6
転職のち自営業となり、それに加え起業するのが当たり前の環境にいる私には、組織内の役職を目指し定年まで同じ会社に勤めあげることが当たり前の同窓生達に批判的です。

保守的で、小さな差異の競争、それでいて人と違わないように、レールから外れないように、リスク計算しすぎて。自分達と違う会社員以外はアウトローだと思い込む人達。

そんな風に思っていた矢先に、そんな人達とそっくりなシュミットに出会ってしまいました。

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シュミットが生まれ育ち学び働いた町は、アメリカの中西部辺り、アメリカの大いなる田舎。ネブラスカ、カンザス、オクラホマ。

娘ジニーは豊かで自由でアーティストの多いデンバー。

保守的な土地に生まれた娘ジニーは故郷から離れ、自由を得て解放されていますが、シュミットはいつまでも自分を構築してきた過去の成功の中にいます。自分を変えようとしないし、必要も感じない。時代が変わっていても、自分の技術も能力もアップデートして来なかったので、中間管理職手前で堅実に定年を迎えます。
アップデート出来た人はもっと出世していたのでしょう。

頑なに自分は正しいと思っている。なぜなら実績を積んできたから。実に昭和のおじさんで、全編通してその悲哀が漂い、周囲と不協和音を起こしています。

でも笑えなかった。

真面目に働き、節度ある生き方をして、節約してマイホームを建て、専業主婦の妻と子を養い、子どもに教育を受けさせ、妻はプチ贅沢ができて、地域や同僚と良好な関係を保ち、定年後は妻の夢を叶えようと大きく豪華なキャンピングカーを買う。時代が要請しモデルとした当時の典型的な生き方でした。

哀れと思ってはいけないと思いました。

忍耐強く大企業の歯車となり、安定した力となり、国をも支えてきた。滅私奉公という言葉がアメリカにあるか知りませんが、家族の幸せを願い会社に身を捧げてきた組織人はどこの国にもいます。それがマジョリティー。

映画では哀れなシュミットにささやかな支えがあることが慰めでしかなく、作品としても、哀れさしか感じられなかったです。夫婦愛はあまり感じませんでした。

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けれど、人は映画を観ては刺激を受けるもので、私は日頃から転職すらもしない大樹に寄りかかる生き方に全面的にNoと公言し転職をすすめていたことを省みさせられました。

この作品は2002年公開ですが、年代設定は1980年台辺りにも見えます。というのはデジタル機器がほとんど見当たらなく、若い後任はコンピューターを「計算機」と呼び、デスクにはPCがなかったので。66歳のシュミットはアメリカの黄金時代(1920年代)に生まれ、豊かな幼少期を送るも恐慌で家を親が手放し、その後苦学して中部では名門の州立大学に入り、堅実な業界で堅実な職種に就いたことが想像できます。

日本の昭和のおじさん達もそう。親が苦労した世代。親の苦労を見て育ち、堅実に生きることを目指したのですよね。

あまり評価の高くない作品ですが、深読みし過ぎて、私は同窓生のシュミット候補生達を批判してきたことを猛烈に反省しました。
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