はる

トウキョウソナタのはるのレビュー・感想・評価

トウキョウソナタ(2008年製作の映画)
4.5
どう考えても傑作!
緩やかに壊れた家族を撮らせたら黒沢清は強い。一見すれば普通の家族。全くそれぞれが口をきかない訳でもないし、激しい口論がある訳でもない。でも明らかに歪み欠けている部分が垣間見える。
開口一番家族の大黒柱である香川照之は会社からリストラを告げられる。正直に家族に伝える事が出来ず、再就職もままならない。仕事に行くと言ってはホームレスと共に炊き出しの列に並ぶ毎日。すると、学生時代の友人である津田寛治と再会する。彼も同じく失業中であり、2人は毎日ふらふらと一緒に過ごすようになる。この一連の流れは確かに重くツラいんですが、2人のやりとりは時折笑える部分もある。しかし香川照之の家族の風向きが少しずつ変わっていく。自らに余裕がない彼は息子たちに強く当たり、奥さんであるキョンキョンとのコミュニケーションもどんどん希薄になっていく。そしてここで大事件が起こる。津田寛治が無理心中を起こし、妻を巻き込み自殺。この中盤は香川照之個人も家族も全ての状況がドン底であるから、観ていて一番苦しい。かと思っていたら、トーンがガラッと変わる事件が起きる。キョンキョンが家で一人でいる時に強盗に襲われる。この強盗を演じるのが我らが役所広司。この辺りから黒沢節が光る非日常的な世界へと変わっていく。役所広司とキョンキョンのやり取りは漫才のように軽妙で一気に笑いが蘇ってくる。ラストは崩壊しきった家族が再生へと向かっていく希望に満ちたものでとても美しい。香川照之と津田寛治は本当に紙一重で、香川照之も津田寛治に成り得た可能性が十分にあった。津田寛治は家族に一切自分が失業中である事を打ち明ける事が無かったからあういう結末になった。香川照之は偶然キョンキョンにバレたおかげでラストの再生があったのだと思う。家族は喜びも悲しみも共有する事でようやく作り上げる事が出来る一見簡単そうでとても難しいモノだというのが痛いほど分かった。ホラーじゃない黒沢清も最高に面白い!
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