atsuki

トウキョウソナタのatsukiのレビュー・感想・評価

トウキョウソナタ(2008年製作の映画)
5.0
線路沿いの家のなか、電車の明かりが左右に行き来して、階段では上から下に転げ落ち、モンドリアン風の時計によって”はめ込まれたそれぞれ正方形の互いに非対称な関係が一種の均衡が定着していると同時に疑わしい”と思わせる。炊き出しとハローワークの人たちが幽霊のよう。面接のカラオケ。歌い始めて「し…」でカットが割られる。コメンタリーで、続きは「心配ないからね君の想いが」だったと言う。つまり、KANの『愛は勝つ』である、と。なぜ香川照之がそれを歌ったのかは分からないらしいけど、役の代弁をしたのか。余談。「山田洋次監督が選んだ日本の名作100本」の録画で観たことがあるんだけど、放送日が2011年4月6日。橋でテッシュを捨てる場面で「来ねえかな、大地震。ぜんぶひっくり返ってさ」と言ったときに、東日本大震災の余震による速報テロップが流れてくる。ほんとうに怖すぎた。ラスト。あの食卓は『ヒストリー・オブ・バイオレンス』で、発表会は『ラルジャン』みたい。経済と紛争と家族と、、、問題はいろいろあるけど、この救済を見れば、まだやり直せるんじゃないのかなと思わされるし、そう思うことこそが救済であったはず。

すこし奥深い作品に到達するために個人にとって必要な時間というものは——このソナタについて私が要した時間のように——公衆が真に新しい傑作を愛するようになるまでに流される数十年、数百年の縮図でしかなく、いわば象徴でしかないのである。
atsuki

atsuki