ay

子猫をお願いのayのレビュー・感想・評価

子猫をお願い(2001年製作の映画)
4.5
すごくかわいらしいタイトルで、実際出てくる子猫はかわいい。
何かをやり遂げている実感が持てない5人の高卒の女の子たちが主役。寝っ転がって子猫を撫でたりみんなの前で携帯電話をいじったりバスや電車に慌てて飛び乗ったり。なんでもない普段のちょっとした仕草や動作が自然に演技にとりこまれている。はじけたりはしゃいだりする場面も時にあっても、全体的には静けさを感じるし声高な主張とか大がかりなドラマからはほど遠い。女性たちが主役だとことさらアピールするわけでもない。恋愛要素も欠いている。でも、久しぶりにみかえして、やっぱりしみじみと好きな作品だった。

当たり前に生きていくうえでのうまくいかなさ、ほろ苦さ、貧しさ、慎ましさ、ぬくもり、前むきさを、デリケートに包みこむ時間と空間が映画のなかにある。セリフで語りすぎず、夜のひととき、ひとりでいるとき、個人としてのふれあいやすれ違いのシーンが、おたがいに段々と影響を及ぼしあう。相手によって注意を惹きつけられて気にかかり、こちらから大切に深い関心をむけていくときの、誰もがうまく伝えることが難しい領域にある感情とかタッチする感覚とか意識の響きあいを、劇的な出来事や単純な説明でただなぞろうとしないで、ひとつひとつ光景をていねいに静かに差し出している。まわりの人をひきたてるニュートラルで貴重な立ち位置にいる、ぺ・ドゥナの存在感。

この作品がデビュー作だった監督の強い愛情のあらわれが、生活のディテールの描写をおろそかにしていない。2000年代頭、韓国の仁川とソウルで確かに営まれていた日常の印象を、素直な実感を通して少しわけてもらえたような気になれた。携帯画面とかネオンサインとか電子文字をいかした表現も、この時代ならではのささやかな記憶として、切ないものを感じさせてくれている。

青みの強いくぐもったカラートーンが醸す、心地よくもぴんとした空気感。ところどころでりんと鳴るエレクトロニカが、寂しさと安らぎと浮遊感を演出し、ほんのり控えめな余韻を耳に残してく。冒頭からひきこまれて序盤は少し淡々、中盤以降じっくりとよくなっていくシーンの流れ。全編をおおうエバーグリーンな澄んだ強度は、寄りすぎずひきすぎずなカメラの、腰が据わったショットの積み重ねにも下支えされている。

女性のつくり手が女性同士の関係をシンプルに見守り味方してくれる映画って、もっとあってもいいよねって思える良作。子猫をかわいがるとき無意識にそっと撫でるように、人に対して自然とやわらかい関心がむく、芯からのあたたかさをもった作品だと思う。
ay

ay