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座頭市のnetfilmsのレビュー・感想・評価

座頭市(2003年製作の映画)
3.8
 ある宿場町の枯れた草むらで盲目の按摩・座頭の市(ビートたけし)が石の上に腰掛け、休憩していた。そこに現れたやくざの一群。頭(六平直政)の命令で、子供に刀を奪わせた男は、市を前にほくそ笑む。しかし次の瞬間、意気揚々と立ち上がる市の前に無残な光景が拡がる。「居合の達人」である市は野菜売りのおうめ(大楠道代)と知り合い、彼女の家に匿われる。農村の宿場町では、銀蔵(岸部一徳)一家が扇屋と結託し、悪事を働いていた。銀蔵一家になってからというもの、おうめたちは毎月のショバ代を毎日にされ、生活が困窮していた。一方その頃、寂れた宿場町に市同様に、服部源之助(浅野忠信)と病身の妻おしの(夏川結衣)がやって来る。おしのは肺結核で咳が止まらず、生活が困窮した夫婦におしのは「用心棒の仕事だけは辞めて下さい」と懇願するが、源之助は妻の薬代を稼ぐ為に銀蔵一家の用心棒となる。源之助と市の初遭遇場面は、『その男、凶暴につき』における刑事・我妻諒介(ビートたけし)と殺し屋・清弘(白竜)の出会いを彷彿とさせる。名うてのアウトローたちは、雇われた先で偶然、自分のライバルになるだろう男たちと直感的に視線を交える。市は宿場町の辺境にあるおうめの家に世話になっているが、夜な夜な出掛ける博打場でおうめの甥の新吉(ガダルカナル・タカ)と出会う。

 現在までの北野武唯一の時代劇は、勝新太郎×子母澤寛の『座頭市』の現代的なリメイクに他ならない。これまでにも北野氏は95年の『みんな〜やってるか!』でダンカンに、『菊次郎の夏』においては自らが憧れの勝新太郎にオマージュを捧げて来た。原作のキャラクターの良い部分は踏襲しながらも、金髪でかつらも被らない市という主人公を演じるのはビートたけしであり、この宿場町に現れた3人の流れ者を主軸に置きながら、銀蔵一家と船八一家との縄張り争いを描く時代劇の構図は、現代のヤクザ映画と同工異曲の様相を呈す。真剣の勝負のトラウマを抱える源之助は、この宿場町に宿命のライバルを追って駆けつけるが、彼の技量は最大のライバル山路伊三郎(國本鐘建)を遥かに凌駕する技量に達していた。北野武のこれまでのフィルモグラフィに呼応するかのように、服部源之助とおしのの夫婦は徹底して寡黙で、夫婦としての会話もない。宿場町で悪となるのは、銀蔵一家と扇屋だが、勧善懲悪のシナリオはこの街の状況に座頭の市を劇薬として送り込む。ステレオタイプなジャンル映画でありながら、その演出には軍団を起用し、当たり前の物語を中和しようとした北野氏の苦労が滲む。決して達者ではないガダルカナル・タカの素のような妙に素晴らしい存在感。「ジャンル映画」に奉仕しながらも、海外での評価への程よいクライマックスの目配せが心地良い。
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