フラハティ

タクシードライバーのフラハティのレビュー・感想・評価

タクシードライバー(1976年製作の映画)
4.7
この街は汚れてる。
ゴミ箱みたいだ。


アメリカンニューシネマを代表する一本であり、ベトナム戦争についても言及した今なお語り継がれる名作。
主演を務めたデ・ニーロは、本作の後に『ディア・ハンター』にも出演し、アメリカの闇を描いた作品には欠かせない人物。

ベトナム戦争から帰還したトラヴィスはある職を見つけた。
タクシードライバーだ。
治安の悪いNYの街を夜から朝まで走り続ける。
不眠症の自分にはうってつけの仕事。
そうして街を走るとわかったことがある。
この街にはゴミみたいな人間しかいない。


ベトナム戦争の意味とは一体なんだったのか。
ウーマンリブ運動や戦争に対する忌避は、時代が進んでいくなかで新しく生まれた価値観であるし、黒人やゲイ、レズビアンなどの多様性が語られているのも本作では印象深い。
この頃はドラッグとかヒッピーって印象が強いんだよね。
国のために兵士として戦った男にとっては、この街は腐ったものでしかない。
正義のために戦い、ようやく帰還したとき、救えない現実を目の当たりにする。
変わり続ける社会のなかで、自分は止まったまま。

本作のラストは、最後までアメリカの闇や、狂気が内側にはらんでいるという示唆がされており、上手い具合にラストまで描かれた映画だと思う。
ラストの展開について、英雄として描かれているアクション映画などと同じように感じるだろうか?
主人公であるヒーローが悪を倒すが、それは単なるエゴかもしれない。
こういったアメリカンニューシネマならではの視点もあり、面白い。


どうにかして正常に、そして社会に埋もれないように生きていても上手くいかない。
自分が社会のなかで繋がりがあってこそ生きているという確証を持てるわけで、誰かのために生きることが叶わなければ、この社会での存在価値は揺らぐ。
仕事のプロになるわけではなく、恋人に尽くすわけでもなく、ただ日々を食い潰すだけでは生きているとは言いがたい。

初デートでポルノ映画に連れていくというイカれたトラヴィスだが、この描写から、彼自身がデートの経験も乏しく、女のことを教えてくれるような友だちがいないという、社会との繋がりが非常に薄いということがはっきりとわかる。
彼は幾度となく人に話しかけるシーンがあり、自分から社会に触れようとしているが結局上手くいくことがない。
社会が彼を拒絶した瞬間だ。


10代で身体を売る少女。
戦争で国のために尽くしたにも関わらず、まともな仕事を与えてくれない社会。
口だけは達者な政治家。
違う世界にいると思っていたが、結局周りのやつらと変わらない女。
どの国や社会でも、輝かしき世界があると同時に、暗く汚い世界があることも事実。
本作はNYが舞台で、今では華やかな場所のイメージしかないが、この当時は国内自体が揺れていた。
国自体が模索しながら変化していくなかで、自己の存在価値を見いだせない男は苦悩する。

本作は中二病をこじらせたかのような男に映るが、実際は社会に取り残された孤独な男を描いた映画。
つまりは、誰の心の中にも隠れて潜んでおり、誰もが社会を無言のままに受け入れることで表面化することを逃れている。
決して英雄ではなく、いつ爆発するかわからない狂気を持っている。


今の社会はほんとに正しいのか。
矛盾した世界は今も昔も変わらない。
「You Talking To Me?」
フラハティ

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