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タクシードライバーのsiaのレビュー・感想・評価

タクシードライバー(1976年製作の映画)
3.6
この作品を観るのは初めてだったのですが、『タクシードライバー』に触発された学生がレーガン大統領暗殺を企てたというエピソードを昔テレビで見たことがあって、それがとても印象に残っていました。

本作はいわゆるアメリカン・ニューシネマに分類される作品のひとつであり、映画全体を取り巻く退廃的でシニカルな雰囲気や体制への反骨精神が大きな魅力です。

この映画では全編を通して、ロバート・デ・ニーロ演じる主人公の社会と自分自身に対する葛藤が描かれます。

正直、ストーリーとして呑み込みづらい部分は多いです。
自業自得のミスから女性に逆恨みする主人公の行動は理解しがたいし、そこから実力行使へと思い至る過程なども不合理です。あれだけの流血沙汰の後で逮捕されないのかという率直な疑問もあります。
見終わった後は、これって結局どういう話だったんだろう?と考え込んでしまいました。

けれども、腐敗した世界の中でもがきながらも何かを成そうとして、そして実際に行動を起こす主人公の姿は誰にとっても強く共感させられるところがあります。

それだけでなく、映画の中のちょっとした会話や夜のニューヨークの街並み、鏡に向かって銃を構える姿、血みどろのアパートなど、様々な場面が脳裏に焼き付いています。
日常のふとした瞬間にこの映画のワンシーンが頭をよぎったりしますし、あの時主人公はどんなことを考えていたんだろうとつい想像してしまいます。

レーガン暗殺未遂事件の犯人はこの映画のジョディ・フォスターに憧れ、彼女の気を引くために行動を起こしたそうです。
ジョディ・フォスターは本作で12歳半の売春婦として登場しますが、演じる彼女自身も当時13歳だったと知ってびっくり。
可愛らしく、存在感があって、確かに憧れてしまう気持ち自体はよくわかります。

そして、この映画をなによりも素晴らしいものとしていたのがバーナード・ハーマンによる音楽です。
ジャズ調のミュージックが気怠くも鮮烈な世界観に見事に溶け込んでおり、作品を一層印象深いものにしていました。
ラストシーンで音楽とともに流れていく窓越しの夜の街並みは本当に美しい。

不条理で破滅的ながらも、いろいろなことを考えさせられるし、どこか活力をもらえる映画でもありました。
おそらく、見れば見るほどにさらなる魅力を味わうことのできる作品だと思います。
いずれ改めて見たときに、自分自身が今度はどういう印象を抱くのかがとても気になるし楽しみです。


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