七沖

タクシードライバーの七沖のレビュー・感想・評価

タクシードライバー(1976年製作の映画)
3.8
〝ダウンタウンのざわめき…街の女 光のカクテル…濡れたアスファルト けだるいジャズの吐息… ニューヨークの夜が、ひそやかな何かをはらんで いま、明けていく…〟
まさに作中の冒頭の雰囲気が感じられる、情感豊かなキャッチコピー。

ベトナム戦争帰りのトラヴィスは不眠症を患い、無目的な日々を過ごしていた。人間らしい生き方を送ろうと、恋をしたり人助けしてみたものの、自分を受け入れてくれる人はいない。トラヴィスは少しずつ社会への苛立ちを募らせていき…というストーリー。

『ジョーカー』を観たことをキッカケに初観賞。数多くのレビューにも書かれていた通り、確かによく似ていた。
社会で受け入れられない男が徐々に狂気を露わにしていく様子が、淡々と描かれている。
デートでポルノ映画に行く『タクシードライバー』のトラヴィス。人とコメディの笑いどころがズレている『ジョーカー』のアーサー。どこか人と違う二人は、徐々に社会からズレて現状の生活に留まれなくなり、やがて決定的な行動を起こしてしまう。

トラヴィスの行動は自業自得なものが多いのでアーサーほど共感できないものの、鏡を見ながら早撃ちするイキイキとした感じは分からなくもない(笑)。この時のセリフ「俺に言ってんのか」は、アメリカ映画の名セリフベスト100というランキングでなんと10位にランクインしているそうだ。

観終わって自分のなかに何が残ったかと問われると、すぐには答えられない。
トラヴィスは確かに社会から疎外されて狂気に染まっていくが、彼も彼で努力が足りない気がするのだ。それは、「政治のことはよく分からないんです」とか、ウーマン・リヴやコミューンをよく知らないという発言にも表れていると思う。
自分のことだけを見ていて、他者を見ていない感じがする。…そういう精神状態に追い込まれてしまうことがこの社会の歪みだということなのだろうか。

結局一番最後に自分の中に残ったのは、しっとりして物憂げなテーマ曲だった。
七沖

七沖