ろ

暗殺のオペラのろのレビュー・感想・評価

暗殺のオペラ(1970年製作の映画)
5.0


私たちはみな、オペラの演者だ。
このタラという街全体が劇場なのだ。


“タラ”ときくと反射的に浮かぶのは、「風と共に去りぬ」。
しかし、戦争で荒廃した土地“タラ”と異なり、こちらはどこもかしこもミステリアス。怪しく光るタラの街にすっかり迷い込んでしまいます。


父のかつての愛人に招かれタラにやってきたアトス。この地で亡くなった父の死の真相を探るよう頼まれる。
徐々に見えてくる過去、そしてアトスを待ち受けていたものとは・・・。


愛人ドライファの豪華なお屋敷。
白やピンクやオレンジ・・・いくつものバラやダリアが鮮やかに咲く。煉瓦造りの壁に絡みつく青々とした蔓は夏の日差しに照らされる。
まるでアトスの目になったように、カメラはゆっくりじわじわと、その美しさを映し出す。


真実に近づくにつれ、張り詰める不穏な空気。
宿泊先の馬小屋に閉じ込められ、起き抜けに誰かに殴られる。
夜道を歩けば待ち伏せていた集団に取り囲まれ・・・。
「君にはすぐにここから出て行ってもらいたい。さもなければ」

父が殺された劇場で上演されるオペラ。
アトスが席に着くと、向かいのボックス席に座る三人組と目が合う。
それはアトスが犯人とにらむ男たちだった。
オペラの途中 見やると、三人のうち二人が消えた。
またしばらく経つと、残りのひとりも消えていた。
まさか・・・。
振り返ると、薄暗い部屋の扉はゆっくりと開き、光が差し込んでいた。
その瞬間、演目が終わったのか、聴こえるのは拍手喝采。
「そうだ、父はこの拍手の音に紛れて殺されたんだ」


白い糸でぐるぐる巻きにされた豚肉が天井から吊るされていたように、“蜘蛛の策略(Strategia del ragno)”から抜け出せなくなってゆくアトス。

「だれかが描いた筋書き通りに、僕はただ動いているみたいだ」

遅延のアナウンスがホームに流れるなか、線路をなめていくカメラワークにゾクゾクとした残酷さをおぼえます。







( ..)φ

アトスが木立を走って走って逃げる場面。
パッと重なったイメージは、ゴッホの「ポプラ林の中の二人」。
今年 初来日したこの絵は展覧会の目玉、たくさんの人が詰めかけていました。わたしは人と人のわずかな隙間に体をねじこむようにして、まじまじと眺めつくしました。
鮮やかなグリーン、咲き乱れる黄色と白、そしてポプラの幹に使われている青紫色は後ろ髪引かれる美しさ。

リュミエール兄弟の映画を観て「ドガやルノワールの絵が動いている!」と感じたのと同じように、駆けていくポプラ林に、わたしはハッと目を見開いてしまいました。


そしてなんといっても、「知りすぎていた男」はじめ「裏窓」「サイコ」「めまい」など、ヒッチ要素をふんだんに盛り込んだ、めちゃめちゃに想像を掻き立てられるスリル!
特にオペラのシーンはハラハラしすぎて、「アトス、あぶないって!やばいって!」と心のなかで叫びまくっちゃうぐらい(笑)すごくたのしかったです!
ろ