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河内山宗俊のakrutmのレビュー・感想・評価

河内山宗俊(1936年製作の映画)
4.2
弟の借金のかたに身売りされそうな甘酒屋の娘・お浪を助け出そうと奮闘する、表坊主・河内山宗俊と浪人・金子市之丞を描いた、山中貞雄監督の人情時代劇。河内山宗俊は実在の人物で、歌舞伎や映画などの題材としてよく使われている。山中貞雄監督は、当時の時代劇の中心であるチャンバラ劇とは異なる、人間の心理や情を時代劇で表現しようとした監督である。本作でも二人の男性が自分の財産や命を投げ売ってでも、お浪という純真無垢な娘を助けようとするという人情を描いており、また、親しく交流していた小津安二郎監督が3年前に撮った『非常線の女』へのオマージュとも言われている。ただし、本作のベースとなっているのは、歌舞伎の演目『天衣紛上野初花-河内山-』であろう。

そして、山中監督の目に偶然止まったのが、前年に映画デビューしたばかりの原節子であり、お浪役としての起用を切望したそうである。原節子にとっても本映画が初めての主役級の役柄であり、初めての京都での撮影ということもあって、最初は戸惑ったようである。デビューしたばかりの初々しい原節子を見れるだけでも貴重であるし、所々にぎこちないシーン(泣くシーンはあまりうまく行かなかったかも)はあるものの、男性が庇護したくなるような純真でか弱い娘を上手く演じている。

個人的には、原節子とともに、河内山宗俊を演じた河原崎長十郎と、金子市之丞を演じた中村翫右衛門の、飄々とした中にユーモアが交じるような味のある演技も、元々時代劇と言えばこういうタイプのものが好きなこともあり、とても気に入ったし、漫才のような掛け合いをする武士たちなど、脇役たちもなかなか芸達者(歌舞伎役者が多く出演しているので、芸達者なのは当たり前かもしれない)で、映画全体としてとても面白かった。戦後に多くの映画で名脇役として活躍する加東大介も、歌舞伎役者の市川莚司として、小狡く立ち回る商人を演じている。若くして戦死した山中貞雄監督の作品で現存しているのは、本作を含めて3作品のみなのは残念であるが、他の2作品も見てみようと思う。

なお、原節子のキャリアにとっても、本作は重要である。初の主演作であるとともに、本映画で原節子の演技を見たドイツのアーノルド・ファンク監督は、日独合作映画『新しき土』の主役に起用することになる。
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